G20外相・開発相会合 中国包囲網巡り思惑交錯<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 6月29日、イタリアのマテーラで20カ国・地域(G20)外相と開発相の会合が行われた。

 <多国間主義でコロナ禍の克服を目指す方針を確認し「より良い回復に向けた国際的な取り組みの強化」をうたった「マテーラ宣言」を採択した。パンデミックで世界の飢餓人口が増加したことを受け、食料安全保障分野への投資増強でも一致。国際ルールに基づく持続可能な開発も討議した。/外相会合は約2年ぶりの対面開催で、茂木外相やブリンケン米国務長官らが出席。中国の王毅国務委員兼外相はオンライン参加。ロシアのラブロフ外相と韓国の鄭義溶外相も現地入りを見送り、外務次官が出席した>(6月30日本紙電子版)。

 当初、米国はG20の共同声明で中国を非難する内容を盛り込もうと西欧や日本に対して働き掛けていた。中国の王毅国務委員兼外相はオンライン参加にとどめ、ロシアが出席者を次官レベルに落としたのは、反中包囲網を形成しようとする米国の動きに対する不快感の表明だ。ロシア指導部には、米国が普遍的ルールと定める民主主義や市場経済が、米国の覇権体制を維持するための道具のように見える。

 米国は中国とロシアを「専制体制だ」と非難する。もっともプーチン大統領を含むロシアの政治エリートは、米国から「お前たちは専制体制だ」と批判されても、腹の中では「そうだけれども、何か問題があるのか」と考えるだけだ。

 ロシアの外交目標は、多極化だ。従って、価値観において米国の一極支配を前提とする対中包囲網にロシアが参加することはない。同時にロシアが米国に対抗するための戦略的同盟を中国と組むこともない。ロシアは、個別の局面で自国の利益を極大化するというプラグマティックな関係で中国と付き合っている。

 今回のG20外相・開発相会合で採択された共同声明(コミュニケ)では、中国を直接批判する文言はなかった。ただし、6月29日に採択されたG20開発大臣会合コミュニケには、∧国内及び国際的な資金調達は、アディスアベバ行動目標に基づいた透明性と相互説明責任の重要性に留意しつつ、2030アジェンダとSDGsの統合的で不可分な性質と整合的に、国の優先事項に合わせるべきものであり、持続可能な開発を推進すべきである∨(外務省仮訳)と記されている。

 これは中国による一部諸国への過剰融資を批判する内容だ。日本としては、中国をけん制しつつ、同時に同国との関係を過度に緊張させないという二つの目的を達成できたと思う。

 最近の日本外交は、総論として日米同盟を強調しつつも、中国のウイグル人人権問題、ミャンマーの軍事政権との関係、ロシア政策などで、米国の思惑とは異なる選択を静かに行うことが増えている。対米従属というイデオロギーで日本外交を判断すると、外交の実態を見損ねる危険がある。

(作家・元外務省主任分析官)