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中国と民族問題 強制的同化は困難だ<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
佐藤優氏

 1日、中国共産党が結党100年を迎えた。北京では盛大な祝賀大会が行われて習近平・中国共産党総書記が演説を行った。3日、本紙は社説でこの演説を批判し、以下の指摘をした。

 <世界第2位となった経済大国の進路を世界が注目している。武力や権力を振りかざす覇道に進むか。徳をもって人々の信頼を得る王道を歩むのか。経済だけでなく人権問題の解決や多国間協調など中国が抱える課題は山積する。/ナショナリズムを鼓舞する内向きの演説よりも、大国としての責任をどう果たすのか国際社会に発信すべきだ。

 /習氏は演説で「有益な提案や善意の批判は歓迎するが、偉そうな態度の説教は絶対に受け入れられない」として、諸外国からの批判を受け付けない姿勢を印象付けた。/だが中国に対する批判は「偉そうな説教」ではない。香港で起きている事態を強引に正当化する中国共産党こそが、自由な意思表明を保障するという世界共通の価値観に目を背けているのだ>

 筆者も同じ意見だ。筆者は、1987~95年、モスクワの日本大使館で勤務していたときに民族問題を担当していた。帰国後96年から2002年まで東京大学教養学部でユーラシア地域の民族問題について講義をしていた。ロシアと比較して中国は民族問題の難しさを十分に理解できていないように思えてならない。

 中国共産党は、コミンテルン(共産主義インターナショナル=国際共産党)中国支部として出発した。当初、中国革命も世界革命の一環として位置付けられた。ところでマルクス主義だと歴史は資本家と労働者の階級闘争によって進む。これにレーニンは若干の修正を加えた。被抑圧民族に関しては愛国的資本家は労働者と連帯できるとしたのである。それでも民族に本質的な意味を認めなかった。

 現在の中国共産党は、革命を輸出して世界を共産主義体制にすることはまったく考えていない。中国国家を強化することが共産党政権の目的だ。中国の国家指導部は主観的にはそうしないと将来、再び外国により植民地にされてしまうと恐れているのだと思う。だから欧米諸国による人権問題による中国への批判が、人権を通じて中国を統制する新植民地主義的策略のように見える。

 同時に中国は、従来の漢人ではなく中華人民共和国に対応した中国人という新しい民族を作ろうとしている。この上からの統合に従わず、自らは中国人ではなく、ウイグル人であることに固執する人々を中国人に強制的に同化し、統合しようとしている。明治政府が日本人という新しい民族に沖縄人を同化しようとした過程に似ている。

 しかし、沖縄県という器を作っても、日本は沖縄人を完全に同化することはできなかった。いずれにせよ日本人はなぜ沖縄人が日本人に完全には同化できないのかが皮膚感覚として理解できない。これとよく似た構造が中国人とウイグル人の間にある。

(作家・元外務省主任分析官)