子どもの貧困対策、成果指標に潜む危うさ 糸数温子氏(研究者)<展望 新・沖縄振興>2


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糸数 温子氏

 今回、新たな沖縄振興計画の素案と同時に、施策の成果指標一覧も作成された。子どもの貧困問題の解決に向けて、困窮世帯の割合を改善することを「主要指標」にしたのは評価できる。ただ、その改善に向けた施策展開の「成果指標」は非常に問題がある。

 成果指標の一つは「貧困対策支援員による支援人数」として、支援された子どもの数を挙げた。この指標では、学校から排除された問題を問い直さずに、とにかく子どもの居場所に連れて行けばいいとなりかねない。しかも、子どもの居場所は既に受け入れのキャパシティーを超えていて、市民らの努力でどうにかしのいでる状態だ。支援人数を指標にすると、市民が何とか努力して改善しなければいけない問題にすり替わる。

 次の成果指標「沖縄子どもの未来県民会議サポーター(個人)会員数」も問題だ。重要なのは寄付者を増やすことではなくて、困窮世帯を減らすためにどうお金を使うかだ。県民の善意を前提に福祉政策を行うことは、結果として県全体の社会保障費の抑制をもたらす懸念がある。

 成果指標の作り方によっては、市民団体やNPOは行政の下請けのような存在になる可能性があり、指標の設定は非常に慎重を要する。

 子どもの居場所では、市民らが子どもたちを学校の外でも自由に安全に遊ばせたい、おなかがすいている子どもにご飯を食べさせたいと願い、運営している。仮に、成果指標が学校に復帰させた日数や進学率などに設定されると、それぞれの居場所が目標とする理念に反して、行政の要請する活動が目的化して、良さが消えてしまう。

 河野太郎沖縄担当相が求めるような定量的な評価指数は、非常に巧妙な統制ツールになり得る。公費削減のために市民の労働がどれだけ「寄与」したかを明らかにする目的のみに使われてしまいがちだ。

 素案は、全体的に市民団体やNPOが主語になっていて、県の主体性が明示されていない。県の福祉予算を削減する方向になりかねなく、問題だ。一方、子どもの貧困や貧困の連鎖を生み出す要因は「所得水準の低さ」と明記したことは評価できる。「所得水準」を向上させるためにも、生活保護の捕捉率の改善や独自に児童手当を増額するなどの大胆な提案もあってもいい。


県は2022年度からの新たな沖縄振興計画の策定へ向け、素案に対する意見聴取(パブリックコメント)を実施している。8月9日まで。素案は企画調整課ホームページや県庁(本庁舎)、宮古・八重山の行政情報コーナーで閲覧できる。問い合わせは同課(電話)098(866)2026。