生理の貧困 社会の「タブー視」が隠すSOS 生涯出費50万円超す試算も<SDGsで考える 沖縄のモンダイ>


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 国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)を推進し、地域や社会をよくしようとする企業や自治体の活動が活発化してきた。一方、県内では多くの課題がいまだに解決されていない。SDGsの理念にある「誰一人取り残さない」「持続可能な未来」の実現へ必要なものは何か。連載企画「SDGsで考える 沖縄のモンダイ」は、記者が現場を歩いて現状を報告し、沖縄大学地域研究所と大学コンソーシアム沖縄の協力で、学識者に解決への道筋を提言してもらう。5回目は新型コロナウイルス感染拡大により問題が顕在化した「生理の貧困」について考える。

 「生理の時の経血の漏れが不安で、仕事中でも1時間に1回はトイレに行く」。浦添市の会社員の女性(35)は切実な言葉を口にした。

 女性は給料日前や出費が重なった月は、必要な量の生理用ナプキンを買えなくなる。そのため、ショーツの上にトイレットペーパーを何枚も重ねて代用する。だが、ナプキンに比べると吸収効果が低いため、時間がたつと吸収しきれず漏れてしまう可能性がある。仕事中、トイレに行くため頻繁に席を立つたびに、経血で服や椅子が汚れていないか、不安が頭をよぎる。

 女性は1人暮らしを始めた6年前から、生理痛を和らげる鎮痛剤を含めて月1500円から2千円かかる出費が厳しく、生理用品の購入をためらうようになった。正社員だが、手取りは月12~13万円。家賃や光熱費などを払うと、手元に残るのは2~3万円ほど。そこから食費や、生理用品を含む日用品代を捻出する。年間に3~4回はトイレットペーパーを代用せざるを得なくなる。「同じような経済状況の人は沖縄にはたくさんいるはず。行政がサポートしてくれたら助かる」と訴えた。

 経済的な理由などで生理用品が手にできないことを指す「生理の貧困」。女性が生きていく上で必要不可欠な生理用品への課税を問題視し、世界的に課税撤廃や生理用品の無償配布を進める機運が高まっている。そのような中、新型コロナウイルスの感染拡大による雇用状況の悪化で生理用品が手に入れにくくなった女性たちが、会員制交流サイト(SNS)などで声を上げたことで、問題が顕在化した。

 女性が一生涯で経験する生理は、12歳で初潮を迎え、50歳で閉経すると仮定すると、約450回に上る。生理用品にかかる出費は一生涯で50万円以上になるという試算もある。生理があるという理由だけで強いられる負担は、経済的に厳しい家庭に重くのしかかる。

 高校生から小学生までの5人の子どもを1人で育てる那覇市の女性(41)は、食料支援と一緒に生理用品も受け取っている。

 女性は4年前に離婚し、パートで居酒屋の清掃の仕事をして生活を切り盛りしてきた。手取りは約8万円。子どもの世話などで休みが増えると、2~3万円に減ることもあった。

 女性の子どもは5人のうち3人が女の子。この先全員の生理が始まると、月々の出費は大きな負担だ。女性は「コロナに関係なく生活は苦しい。この先のことを考えると不安だ」と吐露した。

 生理用品をスーパーなどで購入すると、商品が外から見えない色のついた袋に入れられて、隠される。「生理は恥ずかしいもの」「口に出してはいけないもの」とタブー視する社会的な意識も、SOSを出せない状況を作り出す。

 「娘たちは、友達に生理だと知られるのが恥ずかしくて、学校でトイレを我慢している」。名護市の大城あゆみさん(39)はそう口にした。

 通常、生理中は2~3時間に1回程度、ナプキンを交換する。トイレに行く時には、交換用のナプキンを入れたポーチが必要だ。だが、学校でポーチを持ってトイレに行くと、周りの子どもたちに生理と知られてしまう心配が生じる。生理は恥ずかしいこと、という意識がトイレに行くのをためらわせ、ナプキンが交換できないまま長時間過ごすことになる。

 大城さんは「トイレットペーパーがあるように、学校のトイレに生理用品を置いてほしい。周りを気にせずに生理用品を手にできるようになれば、子どもたちは安心して学校で過ごせるようになる」と訴えた。

子どもたちに貸し出すために本島南部の小学校の保健室で用意されている生理用品(提供)

 学校で生理用品を管理することが多い養護教諭は「生理の貧困」をどう捉えているのだろうか。本島南部にある小中学校の養護教諭5人に取材をすると、「家に十分なナプキンがなく、借りにくる子がいた」と話す人も。

 教諭らからは「生理は目に見えないので『困り感』に気づきにくい」「自分の身の回りで必要なものは自分で用意する習慣を身に付けてほしい」などの声が聞こえてきた。

 ある中学校では、学校の予算で生理用品を購入し、保健室に取りに来た生徒に貸し出して、後日新品のものを返してもらっている。2020年度は122個を貸して、27個が返ってきた。

 同校の養護教諭は「返さなかった子の中には、経済的に返せない子もいたのかもしれない」と推察する。だが学校の財政事情も切実だ。「予算に限りがあり、誰にでも何個でもあげるのは難しい」と語った。

「恥ずかしいことじゃない」

 さまざまな要因からなる「生理の貧困」の解消に向け、県内では少しずつ取り組みが始まっている。

 浦添看護学校では今年7月から、生理用品を校内の個室トイレ計32カ所と、手洗い用のカウンターに置く取り組みを始めた。災害時の食料など備蓄品を買うための予算を使って購入した。

個室トイレに生理用品を置く浦添看護学校の保健委員の学生=浦添市当山の同校

 置き始めてから1週間で、少なくとも20個ほどがなくなっていた。1カ所に8個ずつ置くナプキンの補充は保健委員の学生が担当し、学校ぐるみで取り組みを進める。知念榮子校長は「生理が理由で学校を休んだりしなくていいようにサポートしたい」と話した。

 那覇市の大庭学園沖縄福祉保育専門学校で保育専任教員を務める仲宗根由美さん(44)は「これまで男女問わず、大人になるまで生理のしくみなどについて学ぶ機会がほとんどなかった。知らないからこそ口に出しづらくなる」と指摘する。

 仲宗根さんは授業中、ざっくばらんに生理について話をして、学生らとコミュニケーションをとる。生理について学び、話し合うことで生理はタブーではなくなっていく。男性も共に学ぶことで、生理痛や月経前症候群(PMS)が、パートナーの健康や精神状態に影響を及ぼしていることを知るきっかけになる。

 仲宗根さんは「一般的な生理の周期や経血の量など、正しい知識を知ると、生理は女性が健康的に生きていく上で大切なものだと分かる。生理は恥ずかしいことじゃない」と話した。

 沖縄キリスト教学院大学では、男女問わず学生らが「生理の貧困」の解消に向け動き出している。SNSで学生を対象にした「生理の貧困」の実態把握のためのアンケートを取り、オープンキャンパスではナプキンやタンポンの使い方を学ぶ機会を設けた。目指すのは「生理の日」を制定して、みんなで生理について話し合えるようになることだ。

 活動に取り組む徳元京花さん(22)と當眞千紗さん(23)は「生理は女性だけの問題じゃない」と声を上げる。 徳元さんは「今は『生理がある』イコール『女性』ではない。心は男性だけど、身体は女性という人もいる。性別に関係なく、みんなが生理について知り、学ぶ機会を持つことが『生理の貧困』の解消につながる」と先を見据えた。

 (嶋岡すみれ)

 

背景に構造的問題
 上間陽子氏(琉球大学教育学研究科教授)

 

 生理用品が買えない人のために配布をしたり、これまで口に出せなかったことを口に出したりする動きは、問題を可視化するという点では大切だ。

 だが、生理用品が手に入れられない状況の背景には、女性の賃金が抑えられ、稼げなくなっている構造的な問題がある。単身の女性が貧困ラインギリギリで生きざるを得ない賃金体系になっている。家族をつくったとしても、男性も非正規化が進む中で、少ない給料を二つ合わせてなんとか暮らしていけるという構造的な問題もある。

 この構造的な問題は、次は「トイレットペーパーが買えない」という現れ方をするかもしれない。そのときに、生理用品と同じようにトイレットペーパーを配るのか。要するに足りないものを配布するだけでは、貧困は解消できない。

 また学校が、生理用品の使い方などは家庭で母親が娘に教えるものだという「しつけ」の領域で想定していることも問題の一つだ。例えば、ドメスティックバイオレンス(DV)でそれどころじゃない家庭もある。精神疾患がある親を子どもがケアしている家庭もある。そうした家庭に、親によるしつけを求めることが本当にできるのか。しつけという名のもとに、今ある困難を放置する不平等性にこそ焦点が当てられるべきである。

 子どもが生理用品をもらいにきたら、単に忘れただけなのか、買えない状況があるのか、困りごとをキャッチするチャンスでもある。

 生理用品が手に入れられないのは、単に数百円が払えないという話ではない。そこに象徴される、いろいろなものが欠乏しているという構造的な問題がある。その視点を持っていないと、問題を見誤る。配布を美談化するマスコミに対しては警鐘を鳴らしておきたい。

ブームで終わらせない

 生涯で約450回も経験する生理期間中、生理用品は手放せない。生きていく上で欠かせないものだ。

 その生理用品に、現在日本では、10%の消費税がかかっている。生理による不平等をなくすことを目指す団体「#みんなの生理」は、生理用品は生活必需品だとし、食料品と同様に課税を8%に引き下げるよう求める署名活動を展開している。同団体は、生理用品にかかる経済的負担は、収入の低い女性ほど大きくなると指摘する。

 「生理の貧困」を一時的なブームで終わらせるのではなく、この問題を糸口にしてその背景にある男女の賃金格差や、不安定な雇用形態で働かざるを得ない女性たちに目を向け、誰もが不安なく生理用品を手にできる社会へと変えていく必要がある。

(嶋岡すみれ)

 SDGs(持続可能な開発目標)は2015年、国連サミットで採択された国際社会の共通目標。環境問題や貧困などの人権問題を解決しながら経済も発展させて持続可能な未来を創ろうと、世界中で取り組みが進められている。