自然利用は痕跡残さず「Leave No Trace」やんばるで普及へ 保全の7原則とは


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うっそうと広がる亜熱帯樹林の中を流れるやんばるの清流=2019年、国頭村

 【北部】世界自然遺産に登録された沖縄島北部のやんばる地域で、自然の利用と環境保全の両立に向け、米国発祥の環境倫理「Leave No Trace(LNT、リーブ・ノー・トレイス)」(痕跡を残さない)を普及する動きが始まった。ごみの放置など「人間の痕跡」が貴重な生態系の脅威になり得るとして、行政やアウトドア関連事業者などが中心となり、環境に配慮しながらやんばるの森を楽しむ取り組みの普及を目指す。

 「米国の国立公園にはLNTの看板が立つ。海外では当たり前の概念だ」と強調するのは、LNTの普及に尽力する岡村泰斗さん(51)。「日本では『自然を大切にしましょう』などとよく言われるが、具体的に何をすべきか十分に伝えられていない」と指摘した。

 LNTは「事前の計画と準備」「影響力の少ない場所での活動」「ごみの適切な処理」など七つの原則で構成され、具体的な行動規範が明記されている。

 禁止する文言はなく、積極的に呼び掛けるような言い回しが特徴。岡村さんによると、北米だけでなく、アジアなどでも普及しているが、日本ではまだ一般的な認知に至っていない。

「Leave No Trace」の七つの原則が書かれたタグを持つ国頭村企画商工観光課参与の仲栄真智さん=7月20日、国頭村役場

 ヤンバルクイナやノグチゲラ、リュウキュウヤマガメ、オキナワウラジロガシの大木など、貴重な動植物が育まれてきたやんばるの森だが、キャンプなどで訪れた一部行楽客のマナーの悪さを指摘する声が上がる。自然への悪影響が懸念される中、利用者や来訪者の行動規範が明記されたLNTが課題解決の一助になるとして注目されている。

 国頭村企画商工観光課参与の仲栄真智さん(62)は、県外のキャンプ事業者にLNTの概念を学んだ。村内では一部レジャー客によるマナーの悪さや不法投棄が問題になっている。「LNTは知らずに与えている自然へのダメージを抑えるための具体的なテクニックだ」として普及の必要性を訴える。キャンプなどを通して、地域の子どもたちに伝えていく予定だ。

 キャンプ沖縄事業協同組合は、やんばる地域を拠点とするアウトドア事業者向けに、LNTトレーナー養成講習を9月末に開催予定だ。下地正敏代表理事は「LNTの概念が広がれば、環境保全のための工夫をすることが当たり前の世の中になる。キャンプを通して楽しみながら実践的に伝えていきたい」と話した。

 東村観光推進協議会の小田晃久事務局長は「やんばるの自然の利用と保全のバランスを維持することが大きな課題。LNTを普及し利用者や来訪者の意識を高めたい」と強調。やんばる3村のアウトドア事業者や行政に働きかけ、普及に努めている。

(長嶺晃太朗)