小学生たった4人から…7年で県内初の国体出場権を獲得したペアの「有終の舞」


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関係者向けにデュエットの演技を披露する(左から)玉城結衣、片桐花菜ペア=9月、那覇市

 かつてシンクロと呼ばれて親しまれ、プールで華麗な舞を見せるアーティスティックスイミング。五輪にも採用される人気種目だが、県内では競技としてのなじみは薄い。表現力や芸術性も競う水の採点競技で波之上スイミングスクール(SS)所属の片桐花菜さん(那覇高3年)と玉城結衣さん(豊見城高2年)のペアが県内から初となる国体出場権を獲得した。しかし、国体は新型コロナウイルスの影響で中止に。蓄えた力を発揮する場を失った2人は悔しさをこらえつつ、関係者に限定してデュエットを披露。音楽に合わせた有終の舞で感謝を表現した。

 沖縄での競技史は浅い。県水泳連盟によると1987年の海邦国体時に公開競技として実施され、出場選手はいたが、その後は途絶えていた。

 波之上SSは「全国レベルの選手輩出」を目標に掲げ、2014年から選手育成を開始。その中に小学生だった片桐さんと玉城さんがいた。

 県内には競技向きの水深3メートル以上のプールが少なく、他県と比べて不利な環境にある。それでも専門のコーチを招へいし、指導を重ねた。現在、選手は18人に。片桐・玉城ペアをはじめ、ほかの選手も全国大会出場を果たし、成績を残すようになった。

 国体出場権もコロナで中止 発表会、2人で「最後の演技」

 2人が目指したのが国体出場だ。19年は予選敗退、20年はコロナで大会中止に。片桐さんが高3で最後のチャンスとなることし、ついに国体の出場権を獲得した。だが、ことしの三重国体も中止に。その発表は国体でのアーティスティックスイミング試合日の約1週間前だった。

 競技は高校までと決めている片桐さんは開催直前での中止に「残念だった」。発表から時間がたっても声を詰まらせる。小学生の時から指導を続ける菊田和男コーチは「(玉城との)2人で完成した演技を披露できたはず。また来年に、と取り戻せるものではない」と肩を落とした。

 2人の「最後の演技」を披露するため、波之上SSのプールでこのほど、観客を制限した発表会が開かれた。指先までなめらかな表現力と息ぴったりの動き。テクニカルルーティンとフリーのプログラムを笑顔で泳ぎきった。

 小中高と7年間デュエットペアを組んできた。片桐さんは玉城さんを「家族に近い存在」と語り、玉城さんは片桐さんを「悩みも何でも話せる関係」と話す。2人では最後となる演技に、片桐さんは「実感はない」としつつも「お世話になった方に感謝の気持ちを込めて泳いだ」と笑顔を見せた。玉城さんも「ずっと一緒に練習したプールで演技を披露できてよかった」とほほ笑んだ。

(田吹遥子)