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岸田政権成立へ 国際協調路線後押しを<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 9月29日に行われた自民党総裁選挙で岸田文雄元外相(衆議院議員)が選出された。10月4日の衆議院本会議と参議院本会議で岸田氏は第100代内閣総理大臣(首相)に指名された後、天皇の認証を受け、岸田政権が成立することになる。岸田首相は当面、弱体化した政府システムの強化にエネルギーを傾注するであろう。

 自民党人事、閣僚人事の双方において派閥と世代のバランスを重視している。こうすることで首相機関が強化されると岸田首相は考えているのだろう。興味深いのは松野博一元文部科学相を内閣官房長官に起用したことだ。松野氏は細田派に属する。細田派には、安倍晋三系、森喜朗系、福田康夫系の三つの小グループが存在する。

 松野氏は森氏の信任が厚い。今後、森元首相の岸田政権への影響が強まるであろう。菅前首相と比較して岸田首相は首相への権力集中を緩和していく。そして官僚機構の潜在力を顕在化しようとするであろう。

 経済政策に関して、岸田首相は、コロナ禍で格差が拡大したことを真摯(しんし)に受け止め、格差是正と経済的弱者への支援策を強化するであろう。ただし、安倍・菅両政権が推進した新自由主義的な経済成長戦略は維持する。岸田政権の基本は新自由主義であるが、コロナ禍を考慮して微調整をするということなのであろう。

 現時点で外交に関する岸田氏のイニシアチブは見えてこない。岸田氏も安倍・菅路線を継承し、日米同盟の強化を外交政策の中心に据えるであろう。辺野古新基地建設についても安倍・菅両政権の路線を維持するであろう。ただし、広島出身でもあり、岸田氏は核廃絶への思いが強い。

 核兵器の保有や使用などを禁止する「核兵器禁止条約」(核禁条約)が、2021年1月22日、50カ国・地域で発効した。米国、中国。ロシアなどの核保有国は参加していない。日本政府は実効性が乏しいとして、同条約には参加しない方針を明らかにした。

 他方、国民世論には唯一の被爆国である国民感情を考慮して、核禁条約に日本も参加すべきであるという声もある。自民党と連立を組む公明党は、核兵器廃絶に積極的で、核禁条約の会合に日本はオブザーバーとして参加すべきであると主張している。岸田首相が公明党に歩み寄る可能性が十分あると思う。

 さらに敵基地攻撃能力の保有、米国の中距離ミサイルの日本への配備についても、東アジアで軍拡競争をあおることになる政策に対しては慎重に対処することになる。その結果、自民党のタカ派から「岸田首相の外交・安全保障政策は生ぬるい」という批判が出てくる可能性がある。

 このような批判にひるまずに岸田首相には国際協調的外交を推進してほしい。岸田氏が核廃絶問題に真剣に取り組む過程で、沖縄観に変化が生じるように働き掛けていくことが県と論壇で活動する沖縄人の課題になる。

(作家・元外務省主任分析官)