【深掘り】岸田内閣発足 辺野古強行を踏襲 オール沖縄は警戒強める


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任命式と認証式を終え、記念写真に納まる岸田文雄首相(前列中央)と閣僚ら=4日午後8時22分、宮殿・北車寄(代表撮影)

 自民党総裁の岸田文雄氏が4日の臨時国会で首相に就任し、新内閣が発足した。県出身の西銘恒三郎氏=旧竹下派、沖縄4区=が沖縄北方担当相に就任。日本復帰50年の節目を前に、新たな沖縄振興策のかじ取り役を担うこととなった。沖縄の課題や内情に通じる西銘氏の大臣就任に歓迎の声がある一方で、米軍普天間飛行場移設問題を巡って変節した過去の言動への批判の再燃や、復興相との兼務への懸念を指摘する声もある。外相、防衛相は再任で、普天間飛行場の名護市辺野古移設の推進は変わらない。19日公示、31日投開票で決まった衆院解散選挙への影響も指摘されている。

 「次の担当大臣は、沖縄のことをよく知る人物でないといけない」

 岸田新政権の閣僚人事が取りざたされていた1日、内閣府の官僚が自民党中堅議員を訪ね、こう漏らしたという。党内で沖縄政策について話し合う「沖縄振興調査会」に参加する議員は、官僚の真意をおもんぱかった。「来年3月末で現行の沖縄振興特別措置法が期限を迎える大事な時期だ。党内でこれまで積み重ねてきた議論の中身を把握した人でないと務まらないということだろう」

 立場と整合性 

 西銘氏の沖縄担当相としての入閣が決まった4日、内閣府沖縄関係部局のある官僚は「大きな混乱は避けられそうだ」とほっとした表情を浮かべた。

 前任の河野太郎沖縄担当相は8月、次年度以降の沖縄の新たな振興策についての「基本方向」を発表した。「子どもの貧困対策」や人材育成に注力し、離島振興と安全保障を関連付けるなど、西銘氏が幹事長を務める振興調査会が取りまとめた「提言」に沿う内容だ。政府与党が描く振興策と歩調を合わせた格好だ。

 来年3月末の期限に向けて新たな沖縄振興策の策定が佳境を迎える中、党内議論の当事者だった西銘氏の沖縄担当相就任に、東京では歓迎の声が多い。ただ、県選出議員として地元政界や経済界の要請行動を取り仕切ってきた西銘氏への警戒感も一部に広がる。

 ある官僚は「一議員と担当大臣では立場がまるで違う。地元の声に押されて行政がゆがめられるような事態は避けなければならない」と不安を口にした。

 西銘氏は、2012年の衆院選で普天間飛行場の県外移設を主張。当選後に辺野古移設容認に転じて批判を受けた経緯もある。国政野党議員の一人は「今回の沖縄担当相就任で批判がぶり返されるのは必至だ。拒否反応を示す県民も少なくないはずだ」と強調した。

 11年の東日本大震災を受けて設置された復興相との兼務についても賛否がある。復興相が他の国務を兼ねるのは初めてで、被災地の福島では、震災からの復興を「最も重要な政治課題の一つ」と位置付ける岸田首相の政治姿勢との整合性を問う声も上がる。

 メリットと脅威

 衆院選を間近に控えた時期の西銘沖縄担当相誕生に、自民県連内には歓迎ムードが漂う。公務があるため地元での選挙運動に制限がかかる懸念もあるが、「大臣の注目度は違う。4区だけでなく全県でデメリットをはるかに上回るメリットがある」(県連関係者)と語る。

 自民候補と相対する「オール沖縄」勢には脅威として受け止められている。「大臣としての実績がないまま選挙を迎えることになる。影響は少ないのではないか」(4区陣営幹部)との声もあるが、「オール沖縄」幹部は「沖縄担当相とのパイプを望み、向こうに流れる支持者もいるだろう」と警戒を強める。来年の知事選も見据えて「オール沖縄」の分断を図る狙いがあるとする向きもある。

 ある県政与党幹部の一人は「きめ細かい振興策ができれば評価されるだろうが、何もできなければそこで終わる。自民は沖縄関係予算の減額を知事の責任としているが、県出身の担当相がいて何もできなけければ余計に尾を引くだろう」と見通した。

 (安里洋輔、梅田正覚、中村優希)