[日曜の風・吉永みち子氏]核廃絶への期待 どんな世界を望むか


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吉永みち子 作家

 衆院選が終わって岸田政権が本格始動。望む結果になった人はひと安心し、望まない結果になった人は諦めて再び無関心に戻っていきがちだが、本当は選挙後のこれからこそ政治をウオッチしていかなければならないのだと思う。総裁選、衆院選と岸田文雄新首相はコロナ対策から新しい資本主義まで実にたくさんのことを約束している。全て実現できたら希望が持てそうだが、今のところ見出しだけだし、言うことがどんどん後退する癖のある岸田さんゆえ果たしてどうなることやら。

 ただ、岸田さんだから期待したいことは一つある。核廃絶を目標に掲げるなら核兵器廃絶条約に参加すること。被爆地広島出身と何度も口にしている岸田さんしかできないことかもしれない。

 しかし、そう言った途端、「アメリカの核の傘に入っているから無理なんだよ」「国益を考えれば仕方ないだろう」「もっと現実を見ろよ」といきなり国家利益の代弁者のように立ちはだかる人の何と多いことか。これは沖縄の基地問題にも環境問題にも通じることだと思う。

 しかし、これを現実主義というのだろうか。私には単なる現実容認主義に見える。「これじゃいけないよね」と現状を変えようとすると非現実的だと素人扱いされ、玄人っぽく現実を追認していたら何も変えることなどできない。ひとりの人間として、どんな社会を望むのか。どんな世界を望むのか。そこから自国の政権の姿勢を見ていくことが大事なのだと私は思う。

 脱炭素社会や脱原発だって、これまで不可能で非現実的だと言われていたけど、超遅ればせながら世界は非現実を現実に変えようとかじを切ろうとしている。核兵器によって命や人生を奪われ、原発事故で生活や故郷を奪われた人々が日本にはたくさんいる。その重い事実と証言があったから、核廃絶の動きも脱原発の方向も生まれたのに、肝心の日本がどちらにも後ろ向きというのが何とも情けない。

 かつて、対人地雷やクラスター爆弾の禁止条約には小渕恵三首相、福田康夫首相は政府内の反対を押し切って加盟している。岸田首相に政治決断ができるかどうか。絶対悪の核兵器にも毅然とした態度が取れないなら、富の分配など変えられそうもない。

(作家)