日本の植民地責任を問う 沖縄が国連報告書に<乗松聡子の眼>


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 11月3日、フェイスブックで大城尚子氏(沖縄国際大学非常勤講師、国際公共政策学博士)が、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のHP(https://bit.ly/3FkIYVu)に載った報告書をリンクして「ここに沖縄のことが書かれました!」と発信した。

 これは、国連総会が2011年に設置した「真実、正義、賠償および再発防止保証の促進に関する特別報告者」という役割を現在担うファビアン・サルビオーリ氏による今年7月19日付の報告書「移行期正義の措置と、植民地時代に行われた人権および国際人道法の重大な侵害が遺(のこ)したものへの対応」(A/76/180)だった。植民地支配下で先住民族やアフリカの人々やその子孫に対して行われた人権侵害にどう向き合い対処するか、各国の状況を踏まえて提言を行う報告書だ。

 サルビオーリ氏は今秋の国連総会に提出する報告書に向け、5月までに当事国の市民社会や政府から聞き取りを行った。前記HP上にある、報告書に貢献した団体や個人リストの中に大城氏の名前がある。そこをクリックすると氏のリポート「植民地支配を背景とした人権侵害―沖縄(琉球 Lew Chew)の場合」がダウンロードできる。「真実、正義、賠償および再発防止保証の促進に関する特別報告者」の年次リポートで沖縄が言及されるのは初めてだ。

 サルビオーリ報告書には沖縄についての記述が2カ所ある。一つは、植民地支配の形態として、植民者が支配したにもかかわらず「元々いた人々が総人口に占める割合が高い場合」として、パレスチナや西サハラなどと並び沖縄が言及されている。「日本政府が琉球沖縄の人々を先住集団と認めていないが」というただし書きがついているが、だからこそ、植民地支配下の人権侵害を扱う国連報告書で沖縄が言及されたことには大きな意義がある。

 もう一つは、移行期正義の要素である「賠償」の一形態としての、「先住民族の略奪された文化遺産、例えば、工芸品、記念碑、考古学的遺跡などの返還」を論ずる中で「沖縄の人々は、1928年と1929年に墓から取り出され、日本に持ち込まれた26体の人骨の返還を求めている」ことを例として挙げている。報告書を締めくくる「勧告」では「文化遺産や考古学的遺跡の返還」が植民地支配の賠償に不可欠な要素の一つとして挙げられている。

 報告書が論じている日本の植民地支配の未解決問題は琉球/沖縄だけではなく、朝鮮の植民地支配時に起きた重大な人権侵害である日本軍「慰安婦」問題への言及もあった。移行期正義の実践において肝要とされる「被害者の参加」の議論の中で、日韓政府が交渉において被害者との協議を怠ったことが批判の対象となったことが例示されている。

 10月26日、国連総会の第三委員会で報告したサルビオーリ氏は「この報告書は強国の過去に触れるものであるため、その作成は困難を伴った」と述べ、「移行期正義に被害者が参加することが、信頼に基づいたプロセスを開始する唯一の方法であることを再確認」したという(国連の会議報告HP)。大城氏が、被害を受けている側の専門家として、琉球/沖縄の植民地支配の歴史と現状について国際社会に訴えた功績は大きいと思う。

 (「アジア太平洋ジャーナル・ジャパンフォーカス」エディター)