ライブ配信「質」の時代に 世界が認めた新垣睦美(ライター・野田隆司)<年末回顧 ポップス>


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 2021年、沖縄もコロナの感染拡大とともに始まった。年明け早々、多くのイベントは中止や延期を余儀なくされた。4月のまん延防止措置に始まりその後緊急事態宣言が続いたことは、音楽業界にとって大きなダメージだった。イベントそのものを開催できないこともさることながら、開催時の規制の多さは、やむを得ないとはいえ、観客を遠ざける要因にもなった。

KgK(川崎巽也、上地gacha一也、城間和広)とアルバム収録曲を演奏する新垣睦美(右端・歌三線)=1月30日、沖縄市のミュージックタウン音市場(田中芳撮影)

 前の年に広がったライブ配信は、ある程度定着はしたが、回数を重ねるごとに目新しさも薄れ、視聴者数が大きく乱高下した。自然な流れだが、クオリティーが求められるようになったことが大きな要因だ。有観客ライブを配信で補完する形を、うまく広げられればまださまざまな可能性はあるはずだ。

 そうした中、新しい作品は続々と生まれた。注目作の一つは、石垣島出身の女性シンガー、G.Yokoのアルバム「Survive」。ロックバンドHEATWAVEの山口洋がプロデュースを務めた。島の海と土の香りを醸すようなアンビエントな響きと、芯のあるロック・スピリッツが全編で同居していた。プロデュース・ワークにより、作品の世界観が広がりを見せた好例と言えるだろう。

 うれしいニュースもあった。10月、沖縄発のワールドミュージックを発信するARAGAKI Mutsumi(新垣睦美)は、ポルトガルで開催された世界最大のワールドミュージック見本市WOMEX(the world Music expo)の公式セレクションに選出され出演を果たした。沖縄のソロアーティストでは初めて。沖縄音楽は90年代初頭、欧米のワールドミュージック・シーンに紹介されたが、その後20年以上にわたり、ほとんどクローズアップされることはなかった。今回の出演により、欧米のマーケットでARAGAKIだけでなく、沖縄音楽そのもののプレゼンスの底上げが期待される。

 秋以降、コロナの影響が落ち着いてきて、ライブ・イベントも徐々に通常の形に戻りつつある。10月後半以降、MONGOL800が主催する「What A Small World」やヒップホップ、ストリートカルチャーの祭典「波の上フェスティバル」、HYが主催する「SKY Fes」といった野外フェスティバルも開催された。

 ライブ・イベントを、コロナと向き合いながら、多くのルールにのっとってやることは、来年以降も当分続く。しばらくは困難な時間が続くはずだが、音楽はこれまでそうした局面を乗り越えるための光として存在してきた。その本質は今後も変わらない。