動き出す「北部医療センター」 市長は現場と向き合う立場に<名護市長選1・23>


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本島北部の医療事情について語る名桜大学の大城真理子保健センター長=4日、名護市の同大

 名護市内には、県立北部病院と北部地区医師会病院の二つの急性期病院がある。診療科が重複している非効率性や慢性的な医師不足が長く指摘されてきたが、2病院を統合する「公立北部医療センター」(北部基幹病院)の構想が、2026年度の開院に向けて県を中心に走り始めている。

 医療体制が不安定ゆえ、妊婦や救急患者が中南部にやむなく搬送されるケースは珍しくない。一方で名護市民の中には、医療スタッフの数や、医療機関の選択肢の多い中南部での診療を“自発的”に希望し、定期的に通院する人もいる。

 市東海岸に暮らす男性(74)は、15年ほど前に精密検査で大腸がんの末期症状と診断された。市内でも手術はできたが中部の病院を選択し、今も月に1~2度、抗がん剤治療などのため通院している。「担当医が2人いて、入院時の見回りもこまめにやってくれる。何より安心感がある」と明かす。

 2病院の統合で、県によると病床数は450床になり、24時間体制の周産期医療が提供されるなど、体制拡充へ期待が高まる。北部の医療事情に詳しい名桜大学の大城真理子保健センター長は、がんの遺伝子情報を調べ最適な薬を選ぶ「がんゲノム医療」の役割を担う必要性を特に指摘する。

 ゲノム医療により、従来の抗がん剤が効かない患者にも効果が見込まれる。北部では現在対応する病院はなく、本島中南部の病院に出向く必要がある。北部基幹病院の基本構想では「地域がん診療連携拠点病院」としての位置付けも盛り込まれ、大城センター長は「ゲノム医療は進行がんの患者や若年層にとっての治療手だての一つ。拠点を名護に置き、地元で享受できるようにすべきだ」と提言する。
 北部基幹病院の設置主体となる「県北部医療組合」の設置者には、県とともに名護市を含む北部12市町村が名を連ねる。各市町村間で医療事情は異なり、基本構想策定に時間を要した経緯もある。大城センター長は「地域が初めて『わったー病院』を持つことになり、市長も現場の要求に向き合う立場になる。医療圏最大の人口を持つ名護市長には医療現場への理解と共に悩み、痛みを分かち合う姿勢が重要だ」と強調した。

 (’22名護市長選取材班)


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