【識者談話】これからの名護市どうつくる?環境を軸に福祉の街を 真喜屋美樹氏(沖縄持続的発展研究所長)


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真喜屋 美樹氏(沖縄持続的発展研究所長)

 沖縄県名護市の市内総生産額(2017年)は2103億円で、宜野湾市の2027億円より高い。人口も増え経済社会的に発展しており、今後はハード施設建設や総花的な再開発より、環境に軸足を置く「公共の福祉」の街づくりが望まれる。

 名護市西部の中心市街地の課題と、東部が抱える地域医療体制の課題に目を向けると、近年、国内外で進む手法による都市のマネジメントが考えられる。

 一つは、ウォーカブル・シティー(歩ける街)だ。中心市街地では空き地や空き家が増える「都市のスポンジ化」が起きている可能性がある。欧米では徒歩や自転車の移動圏内で生活必需品がそろえられる「15分シティー」構想も始まっている。人口減少や高齢化の時代に検討されるモデルではないだろうか。

 二つ目は、スマートシティーだ。人口7万人弱の長野県伊那市のICTを利用した地域医療対策(モバイルクリニック)は参考になる。スマートシティーは、医療機関偏在による地域格差を解消する可能性がある。

 本島内の脱炭素社会を実現する上で、名護市ややんばるの自然は貴重な資産だ。温室効果ガスの排出量を計算上ゼロにするカーボン・ニュートラルは、人口と産業が集まる中南部の炭素排出量を北部の森林が吸収することで成り立つ。名護市は北部の中核都市として、中南部との経済的格差を是正するための炭素税や排出量取引といった政策手段を、北部圏域で取り入れる仕組みをリードできるだろう。

 名護市は1973年の第1次市総合計画で、経済成長のみに価値を置かず自然と共生しながら発展する「逆格差論」の立場から、将来像を描いた。今でこそ地球レベルの環境問題や脱成長・脱資本主義が注目を浴びるが、名護市は約半世紀前に現在のSDGs(持続可能な開発目標)にも通底する思想と価値観を提示していた。未来を見通したその思想に改めて学ぶことは多い。