【石垣】石垣島に小さな“私立図書館”がオープンした。貸し出し専門で、テーマは「外で本を読もう」。借りた本を館内ではなく、それぞれのお気に入りの場所で読んでもらいたいという。「本と人と地域の新しい関わり方を示したい」と願いを込めた図書館の名は「みちくさ文庫」。運営する佐藤仁さん(29)が目指すのは、読書を通じた島の魅力の再発見だ。
図書館は石垣市の中心商店街、ユーグレナモール近くのビルの1階にある。室内に図書館らしい机や椅子はなく、本や雑貨だけが並ぶ。一見すると雑貨店のような雰囲気だ。本の借り方は独特で、佐藤さんに借りたい本を申告し、デポジット(保証金)として500円を預ける。貸出期間はおおむね1週間と緩やかで、返却すると預けた500円が返金される。運営は寄付で賄っているという。
佐藤さんは大阪府出身。学生時代から読書が好きで、大学卒業後は銀行に勤めた。だが数年前に仕事を辞め、知人に誘われる形で八重山に引っ越した。それまで八重山に来たことはなかったが、住んでみて居心地の良さが気に入った。
本業はTシャツなどのデザインで、移住後は竹富島のTシャツ店で働いていた。その際「同じ本でも読む場所によって感じ方が変わってくる」と店の一角に本棚を置き、観光客らに店の外で本を読むことを勧めていた。だがコロナ禍の影響で竹富島の店は閉店。これを機に本格的に本を貸し出す場をつくりたいと、石垣島で図書館を開いた。
蔵書の大部分は佐藤さんに共感した人たちから寄贈された本で、図書館の利用者には本の感想をカードに書いてもらっている。感想は寄贈者に知らせている。「利用者も本を楽しめて、寄贈者も感想を楽しめる。感想を踏まえて、寄贈者がまたその本を読むかもしれない」。寄贈者が譲った本を改めて書店で買えば、書店の利益にもつながると考えている。
佐藤さんが屋外で本を楽しんでほしいと思っているのは、まちの人が八重山の風景について考えるきっかけをつくりたいからだ。本の特徴は、読む場所によって内容の印象が変わることだという。本と一緒にまちを歩くことで、佐藤さんは「その土地の面白さに対する感度を上げることができる」と力説した。
(西銘研志郎)