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差別をしたくないけれど<伊是名夏子 100センチの視界から>115


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
自分の毎日を顧みることができる一冊。私も帯にコメントを書き、大月書店のサイトnoteに書評も掲載。本とともに読んでいただけると嬉しいです。

 先月の年始の1週間、私は家族と沖縄で過ごしました。コロナの感染が一気に拡大したあの時です。米軍関係者からの感染が多いと聞いていたので、関係者がよく行くであろう場所にはなるべく行かないようにと考えながら過ごしていました。しかし関係者を避ける私の行動は、偏見に基づくこともあるのだろうと気づきました。

 なぜなら米軍関係者全員が感染しているわけではないですし、それ以外の人たちも感染している可能性があるからです。特定の属性の人を避けるという考え方は、偏見が生まれる構造と同じです。日ごろから人を差別しないようにしたいと思っていても、非常事態や、自分に余裕がない時は、自分のことだけを優先して考え、差別をしてしまうことに気づきました。そしてパニック状態にいると、たくさんある情報の中から、正しいものを見分けられず、偏ったものや、デマを信じてしまうことがあると痛感しました。

 「差別はたいてい悪意のない人がする(大月書店)」という韓国で16万部売れたベストセラーが、昨年日本で発売されました。差別をしたいと思う人はいないし、自分はいい人でいたいと思う人が大半でしょう。しかしマジョリティーに属する人は、マイノリティーが感じる困りごとや、差別的な体験を日ごろしないで済みます。例えば子どもが7歳なったら、近くの小学校に就学しますが、障害があると通えるか分かりません。障害のない人にとっては小学校に通えないことがあるなんて、思ってもみないことでしょう。それは学校が、社会が、障害のない人が困らないように、優先されて作られている、障害のない人は「特権」を持っているとも言えます。当たり前に感じる自分の毎日が、差別につながっている可能性があるのです。

 また差別の問題を考える時、権力構造の視点も大切です。例えば日米地位協定では米国が日本よりも有利な条件が多いと感じます。しかし基地に駐在する米兵の一人一人が、沖縄県民より権力を持っているかというと、そうでもないでしょう。差別について考える時、人と人との問題だけでなく、全体の構造が原因のこともあり、とても複雑です。だから無意識の差別がたくさんあるのでしょう。

 自分の毎日を顧みることができる一冊。私も帯にコメントを書き、大月書店のサイトnoteに書評も掲載しています。本とともに読んでいただけるとうれしいです。


 いぜな・なつこ 1982年那覇市生まれ。コラムニスト。骨形成不全症のため車いすで生活しながら2人の子育てに奮闘中。現在は神奈川県在住。