新・沖縄21世紀ビジョンが掲げる五つの将来像 SDGsや多様性の理念盛り込む


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新たな沖縄振興計画の最終案を発表する玉城デニー知事=1日、県庁

 沖縄の日本復帰50年の節目の2022年度からの新たな沖縄振興計画「新・沖縄21世紀ビジョン基本計画」の最終案が示された。2010年に県が初めて独自に策定した長期構想「沖縄21世紀ビジョン」の後期計画に位置付けられる。自立経済の構築や21世紀ビジョンで示した五つの将来像の実現に向けた集大成となる。一方、ここ10年で「子どもの貧困」や「ヤングケアラー」の問題も表面化してきた。「誰一人取り残さない社会」の実現を掲げる玉城デニー知事は、新振計にSDGsや多様性の理念を盛り込み、新たな課題の解決も目指す。

 新たな沖縄振興計画「新・沖縄21世紀ビジョン基本計画」は、2030年までの長期計画「沖縄21世紀ビジョン」の後期計画と位置付けられる。県は新振計で打ち出す339の施策を展開することにより、長期計画で掲げた五つの将来像の実現に向けた“総仕上げ”を進める。新振計の施策展開の一部を項目ごとに紹介する。


 

再エネ導入促進

 将来像(1) 沖縄らしい自然と歴史、伝統、文化を大切にする島

 自然環境の保全や再生、継承に取り組み、持続可能な海洋共生社会の構築を目標に据える。再生可能エネルギーの導入促進、省エネ対策の強化、AI、ビッグデータなどの最先端技術を利用した新たな交通体系を構築するとした。

 豊かな海洋資源を活用した新たな産業「ブルーエコノミー」の展開も掲げた。海底鉱物資源や海洋バイオ分野の研究開発を促進、海洋調査や開発の支援拠点形成に向けて、国と連携する。

 伝統文化の継承として、しまくとぅばの普及啓発、「空手発祥地・沖縄」を世界にPRする。2019年に焼失した首里城を再建し、周辺の新たなまちづくりを目指すことも盛り込んだ。
 

偏見解消へ啓発

 将来像(2) 心豊かで安全・安心に暮らせる島

 全ての子どもが夢を持って成長することができる「誰一人取り残さない社会」の実現を前面にした。具体的には、妊娠期からの切れ目のない支援、適切な支援機関へつなげる仕組みを構築する。

 ひとり親家庭の家計改善に向け、所得水準の高い職種等への就職や転職、スキル取得の機会の充実にも取り組む。

 離島やへき地での質の高い医療の提供に向け、公立沖縄北部医療センターの整備、緊急医療用ヘリコプターの運営補助など体制の充実を図る。

 多様性を尊重する社会の実現に向けては、女性を各審議会や管理職に積極的登用する。「美ら島にじいろ宣言」に基づき、LGBTQの人への偏見解消に向けた啓発、相談体制を充実させる。
 

「稼ぐ力」の強化

 将来像(3) 希望と活力にあふれる豊かな島

 県民所得の向上につながる「稼ぐ力」の強化として、生産性の向上や多様な人材の活躍促進、中小企業の経営改善による各産業の付加価値と競争力を高める。

 企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進、沖縄科学技術大学院大学などの研究機関を核として、イノベーション(技術革新)が生まれやすい環境の構築を目指す。

 主力の観光業は島しょ地域の特性を生かした「体験交流型観光」など各種ツーリズムを推進。観光の質向上に向けて、旅行者、地域住民が価値を共有できる「サステナブル(持続可能)」や「レスポンスシブル(責任ある)」なツーリズムを推進する。
 

平和希求を発信

 将来像(4) 世界に開かれた交流と共生の島

 凄惨(せいさん)な沖縄戦の記憶を風化させることなく、平和を希求する「沖縄のこころ」を広く国内外に発信する。首里城地下の第32軍司令部壕の保存・公開に向けた取り組みに加え、沖縄戦跡国定公園を中心とした平和発信地域の形成などをさらに推進する。世界に広がるウチナーンチュネットワークの継承に向けた交流事業の促進では、県系人のルーツ調査や歴史継承を多言語で担うプラットフォームの構築に取り組む。
 

学習環境の充実

 将来像(5) 多様な能力を発揮し、未来を拓(ひら)く島

 子どもたちの健やかな育成に向けた地域の連携、公平な教育機会の確保や学習環境の充実に取り組む。芸術や文化に触れる体験活動を推進するため、公民館や図書館などの施設を充実させる。

 将来的な人口減に対応するため、多様な職業能力の育成や労働生産性向上など、時代のニーズに適合した職業訓練が実施できる施設の整備・充実に取り組む。琉球大医学部を核とした高度な医療技術の習得や若手指導医の育成を通して、良質で適切な医療の提供に取り組む。

 (池田哲平まとめ)