シーサーとスフィンクスに縁 エジプトと沖縄をつなぐルートがもたらしたもの 吉村作治氏が9、10日に講演「悠久のシルクロード展」


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吉村作治氏(提供写真)

 那覇市おもろまちの県立博物館・美術館で「悠久のシルクロード展」(主催・沖縄美ら島財団、琉球新報社、宣伝)が始まっている。総合監修を務める考古学者の吉村作治氏に展覧会の見どころを書面で聞いた。
 9、10日には吉村氏による講演も予定されている。

 ―シルクロードは歴史的にどのような役割を果たしたか。

 「多くの日本の皆さんが『シルクロード』というと思い描くのは西域の砂漠、ラクダの連なる隊商、そして喜多郎さんのあの素晴らしい音楽ではないか。『シルクロード』は、ローマから中国までの道のりであると思われているが、実はそうではない。古代エジプト文明は今から5000年前にナイル川のほとりに生まれたが、そのエジプトこそ、シルクロードの起点であり、終着地点は日本、大和の国だ」

 「そのルートには、沖縄の地が重要な役割を果たしていた。古代エジプトのスフィンクスは、シルクロードを通ってその姿も変遷しながら、沖縄のシーサー、神社のこま犬へと伝播(でんぱ)されてきた。展覧会は新しい発想に立ち、エジプトから日本までの壮大な時の流れをその土地の出土品から旅しようという試みである。そして平山郁夫画伯の作品がイメージをより一層引き立ててくれる。本物の持つ力を感じてほしい」

展示作品を鑑賞する来館者=5日、那覇市の県立博物館・美術館(大城直也撮影)

 
―シルクロードを旅し、名画を残した平山さんとの交流は。

 「初めて平山先生御夫妻にお目にかかったのは40年ほど前。夫妻がエジプトに来る時にはお手伝いをさせていただき、私の発掘現場を案内した。シルクロードがエジプトの地からスタートするという発想は平山先生も持っていた。(今展覧会で)貴重な作品を拝見できるのは大変幸運なことだと思う」

 ―現代にシルクロードを照らし合わせると何が見えるか。

 「世の中はデジタル社会となって、AIに代表される技術は生活を便利にしてくれた。しかし失うものも多く、人間が違った意味で生きにくくなっているとも言える。古来、人々はシルクロードという道を通って、文物だけでなく、思想や宗教、文化を流通させた。移動は困難で時間のかかるものだったが、文明の花は開いた」

 「つまり人間の力は、一言で言うと『すごい』。『シルクロード』というアナログの集大成である文明の道を考えるのは、デジタル時代を生きる私たちにとって、忘れている人間力を思い起こさせるきっかけになるのかもしれない」

悠久の歴史を物語る展示品に見入る関係者ら=5日、那覇市おもろまちの県立博物館・美術館

 ―展覧会への思いをあらためて。

 「敬愛する平山郁夫先生が亡くなられてから10年余りが過ぎた。シルクロード美術館を訪れると、八ヶ岳に居を構え、創作活動されていた平山先生のことを思い出す。シルクロードに対する思い入れは深く、ご夫妻が生涯をかけて、壮大な交流路であるシルクロードの文物を蒐集(しゅうしゅう)してきたことからもうかがい知ることができる」

 「私がエジプト調査を1966年に始めてから、半世紀以上が過ぎた。今展覧会では、私が発見した記念すべき1号である化粧パレットも展示されている。平山郁夫画伯、そして松久宗琳大佛師の作品が一堂に会して見ていただけることは、この上ない喜び。1人でも多くの方に足を運んでほしい」

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 よしむら・さくじ 1943年東京生まれ。東日本国際大学総長・早稲田大名誉教授。早大在学中より古代エジプト調査隊を組織。人工衛星の画像解析を使い、大型墳墓を発見した。早大教授を経て2010年同名誉教授。


 「平山郁夫生誕90周年記念 悠久のシルクロード展」(主催・沖縄美ら島財団、琉球新報社、宣伝)は、平山郁夫シルクロード美術館の協力を得て故平山画伯の作品や、えりすぐりのコレクションを展示する。9、10の両日は吉村氏の講演会もある。5月8日まで(毎週月曜日休館)。観覧料は一般1300円、大学・高校生900円、中学・小学生500円。