<書評>『沖縄とセクシュアリティの社会学』 植民地主義と共犯の性差別


社会
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『沖縄とセクシュアリティの社会学』玉城福子著 人文書院・4950円

 25年ほど前、当時在籍していたニューヨークの大学院に沖縄のフェミニスト運動家たちがやってきた。沖縄の米軍基地の問題について、送り出す側の米国市民との対話を目指す米国横断ツアーの一環だった。授業では在沖縄米軍の性暴力の問題や米軍駐留の影響などが紹介された。沖縄の歴史と現状は性差別主義と軍事主義と植民地支配が絡み合っているという深い分析に圧倒されたことを思い出す。

 沖縄のフェミニスト運動は歴史も長く国際的にも高く評価されているのだが、沖縄社会を研究する社会学にはジェンダーやセクシュアリティに関する研究が少ないと指摘されている。社会学者である著者はさらに、植民地主義と性差別主義の関連性から沖縄社会を問う視点が社会学に欠けていたと考える。そして沖縄社会が抱えてきたセクシュアリティに関する問題、性暴力と売買春をデータや資料を使って実証的に検証する。そこでは、継続している植民地主義を批判する視点であるポストコロニアリズムが肝要である。

 検証されるのは「慰安婦」、Aサインバー、米兵による性暴力などの表象、そして歓楽街環境浄化運動である。

 1999年の沖縄県平和祈念資料館の展示改ざんがその一つだ。沖縄戦での日本軍による住民への暴力の展示が削除されたことが明らかになり、大きな問題となった。この陰で実は、「慰安婦」や米兵向け歓楽街のAサインバーなどの展示も改ざんされていたのである。改ざんを詳細に検討すると、「慰安婦」の中の沖縄の女性の存在が曖昧にされたり、Aサインバーと売買春との関連が薄められたりしていたことがわかった。支配される側が植民地支配継続の「共犯」となり、性差別が強化されるという結びつきが見て取れる。

 性差別主義も、終わらない植民地支配も、世界各地での現在進行形の問題である。沖縄社会に生きる経験からのポストコロニアル・フェミニズムの構築を目指す著者の実践的な研究は、沖縄のフェミニスト運動が積み上げてきた訴えの意味をこれから広く知らせていくだろう。

 (秋林こずえ・同志社大教授)


 たましろ・ふくこ 1985年那覇市生まれ。日本学術振興会特別研究員PD(沖縄国際大)。主な論文に「環状島の複数性とポジショナリティ―在沖米軍基地の県外移設を求める主張をめぐって」など。