モノクロ映像、響くバイクのマフラー音…三者三様に「復帰」描く 沖縄の3劇団が公演 なはーと


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芸能界デビューが決まり動揺する玉城ルコ(左から2人目・仲間千尋)=5月5日

 「沖縄・復帰50年 現代演劇集inなはーと」(那覇市、おきなわ芸術文化の箱主催)が、5月4日から14日に那覇市の同劇場であった。県内の3劇団が、復帰を題材にした現代演劇を上演した。既出の作品に、復帰に関する映像投影や、県民への事前アンケートの結果を織り込むなど磨きをかけて、三者三様に復帰を描いた。

劇団ビーチロック「オキナワ・シンデレラ・ブルース」

 劇団ビーチロックは5月4、5の両日、「オキナワ・シンデレラ・ブルース」(新井章仁演出)を上演した。沖縄の音楽喫茶店主・玉城エイジ(田島龍)の一人娘・ルコ(仲間千尋)が、本土の事務所にスカウトされ芸能界に入り、引退するまでの日々を描く。切ない物語に、生演奏の音楽と、復帰前後のモノクロ映像が重なり、郷愁を誘った。

 大嶺佳奈は、ルコに化粧をし、スカウトのきっかけをつくるオバァ役を、真栄田文子指導のうちなーぐちで貫禄たっぷりに演じた。

 過去・現在、東京・沖縄と時代や場所が交錯する舞台転換が難しそうな脚本だった。しかし、舞台中央に階段を置き、下段は主に音楽喫茶の場面、上段は過去の回想や東京の場面に活用した。映像作品のように途切れさせずに物語を展開する演出の妙が光った。
 (藤村謙吾)

 

劇団O.Z.E「72'ライダー」

50歳の節目の同窓会に出席しなかった安隆(右端・平安信行)のバイク屋を訪れる友人のてっちゃん(左端・新垣晋也)と長一(上原一樹・中央)=5月7日

 劇団O.Z.Eの演劇「72'ライダー」(真栄平仁作・演出)が5月7、8の両日、上演された。同作は沖縄の日本復帰から1年後の1973年5月、東京の国会議事堂前にオートバイで激突して亡くなった恩納村出身の上原安隆さんをモデルに描いた。

 物語は、72年生まれの「復帰っ子」の同級生や友人が50歳を節目に酒盛りで語り合う現代と、復帰直前に起きたコザ騒動の場面などが交錯した。

 終盤、主人公・安隆(平安信行)がオートバイのマフラー音を会場全体に鳴り響かせる。復帰後も相次ぐ米軍の事件や事故による沖縄の怒りや悲しみ、上原さんの心の叫びを表現するかのごとく爆音が胸を打った。出演はほか、新垣晋也、金城理恵、上原一樹、真栄城弥香、平良直子、渡嘉敷直貴、秋山ひとみら。
 (田中芳)

 

劇艶おとな団「9人の迷える沖縄人」

劇中劇の構造で表現される「9人の迷える沖縄人」=5月13日

 劇艶おとな団は5月13、14の両日、「9人の迷える沖縄人(うちなーんちゅ)」(当山彰一演出)を上演した。日本復帰支持者や沖縄独立論者、戦争を体験した老婆や本土から沖縄に来た人など、沖縄に住む9人による復帰前夜の議論を通じ、今に通じる沖縄の閉塞(へいそく)感を描き出した。

 復帰前夜の議論は劇中劇の位置付けで、出演者は現代の役者の役と、復帰前の時代を生きる市井の人の2役を演じた。現代の場面では、本公演に当たり募集した復帰時の思い出を発表した。「パスポートがいらなくなった」という回答には、復帰前に使われていた実物のパスポート(日本渡航証明書)をスライドに映し出し、当時の使用者の思いを観客と共有した。

 上門みきは議論の場面、客席を背に座るため表情は見えなかったが、快活な演技で笑いを誘った。
 (藤村謙吾)