【識者談話】戦時の住民避難、不可能 中京大学教授・佐道明広氏(防衛政策史)


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佐道 明広氏

 国民保護法は有事法制の翌年、2004年にできた。有事法制は福田赳夫内閣以降20年以上検討していた。他方、国民保護については議論の積み重ねがなく、防災対応をベースに制度設計をした。

 自治体が自己完結能力のある自衛隊に頼る、という発想になるのはやむを得ない。ただ、現状でも定員割れの自衛隊が、有事対応をしながら国民保護に協力するのは困難だ。災害派遣などで信頼を高めてきた自衛隊が「軍隊は住民を守らない」と県民の失望を買うことは、県民・自衛隊双方にとって不幸なことだ。

 人口約1700人の与那国島でも避難のための飛行機や船の確保に苦慮する中、5万人規模の宮古島や石垣島で、島外避難はより困難だろう。与那国も宮古も石垣も、有事の想定はほとんど説明されないまま自衛隊が配備されている。現実には、自衛隊がある程度取り残された人々を守りながら戦闘するという展開が想定される。しかし宮古や石垣の現状の配備人数で、住民の安全確保ができるか疑問だ。

 戦争を回避するため、外交力強化を含めた総合的な安全保障戦略が重要だ。ただ、不幸にして戦争が起きた場合、住民を遠く逃がすのは不可能だ。島の中で避難場所確保や食糧備蓄、有事対応の自衛隊との協議、国の予算措置などが必要になろう。
 (防衛政策史)