沖縄は日本の縮図 ホンモノの民主主義問う 菅原文子さんコラム<美と宝の島を愛し>


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 沖縄は、日本の主要な政治的テーマを反映する日本の縮図だ、と最近思うようになった。沖縄を日本の中で別格で特殊と考える人もいるが、いや、ここには日本が敗戦後抱えてきた問題が凝縮した形で表れている、とみることもできる。弱いところに問題のしわ寄せが来るように、親の経済的しわ寄せが子どもの貧困となって現れるように。

 本土各地にも米軍基地はどっかりと居座り、やりたい放題の感がある。だが沖縄では、それがさらに濃度を増し、専有面積の占める割合の大きさはもちろん、駐留軍は米国政府の出城であり、日本政府も立ち入れない大国の飛び地となっている。日米政府それぞれの思惑に振り回される沖縄は、県民の意識や利害が分断され、地方自治もままならない。沖縄戦の遺骨が眠ることを承知で、辺野古埋め立てにその土砂が使われるそうだ。

 これを承認した県行政担当者たちは理屈を並べるが、本土政府の意向を忖度したのか。つまり自治もままならないのだ。地方自治は住民の良識ある意向に沿うことが求められるはずだ。大空爆で死屍(しし)累々だった東京も、高度成長期からバブル期にかけて金もうけに良心を捨てた人々が、遺骨の出る場所もお構いなしに開発し不動産を売りまくった。辺野古新基地建設とは、米国のための不動産開発を日本人の税金で行い、死者への哀悼という当然の良心さえも捨てさせた。

 沖縄は子どもの貧困率が都道府県別でトップだが、世界ランキングで日本全体の子どもの貧困率は9位の高さだ。沖縄は日本の縮図だ、と思う一因はここにもある。ちなみに米国は何と4位だ。米国の病とも言える絶え間ない銃犯罪と、子どもの貧困率の高さは富裕な米国の別の顔だ。先ごろG7が開かれたが、7カ国中、イタリア、カナダも子どもの貧困率がそれぞれ7位と12位、G7参加国を大国視する時代は終わった。

 メディアは慣例に従って大きく報道するが、1年中言っているのと同じ内容を、超が付く豪華ホテルから発信しても、中国ならずとも、日本人の一人としても、とても耳を傾ける気にもならない。首脳たちの息抜きと社交の場と化したG7の権威は地に落ちた。オリンピック国際委員会なども同じだが、権力は長く続くと慢心で腐敗する。

 子どもの貧困の背景には親の貧困がある。OECD(経済協力開発機構)の統計によれば、相対的貧困率の世界ランキングで、米国は4位、日本は13位だ。都道府県別では沖縄県は年度によるが、ワーストか2位にある。その原因は非正規雇用が多いことだと言われる。どちらも今の日本社会が抱える問題であり、政治的課題でもある。この傾向からも沖縄が日本の縮図に見えてくる。

 非正規雇用が多い業種は宿泊、飲食業だ。日本の産業構造は工業などの2次産業、農漁業などの1次産業が弱体化し、3次産業に偏向した。沖縄もそれを反映しているが、県土の多くを米軍基地が占有していれば、1次、2次産業の振興に割く地べたが少なくなるのは当然だ。問題のしわ寄せはここにもある。

 この国の行く末に希望が持てなくなって10年余り、新型感染症やウクライナ戦争が社会と人心に影を落としている。安倍晋三元首相の銃撃事件で政治の不寛容さがさらに増せば、さらに暗い時代になるだろう。

 岸田文雄首相が簡単なコメントを出したが、議員として同期、と感傷的な内容だった。中学の同窓生ではあるまいし、同期議員という個人的な感傷は不要だ。偉大な政治家だったとたたえたが、人の死を悼む当たり前の礼節と元総理の数々の功罪のうち、問われなければならない事柄は、これでみそぎが済んだと白紙になるわけではない。民主主義がホンモノになるために、理性と良識の民意が力を合わせる時だ。

(本紙客員コラムニスト、辺野古基金共同代表)