小児がんの子や家族が集まる場所に 飲食店「オキバル」開店 寄付団体も創設 那覇市久茂地


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「小児がんの当事者の方たちがつながれる場所にしたい」と話す當間健人さん(中央)と松村太雅さん(左)、「オキバル」店長の宜保健志郎さん=7月、那覇市久茂地

 小児がんの子どもやその家族の集まる場所を作ろうと、小禄高校の同級生だった當間健人さん(31)と松村太雅さん(30)が、クラウドファンディングで開店資金を募った飲食店「沖縄バルのお店 オキバル」(宜保健志郎店長)がこのほど那覇市久茂地にオープンした。

 當間さんの長男が白血病を患ったことを機に、当事者同士が情報交換をしたり支え合ったりするつながりの大切さを実感したことがきっかけだ。

 當間さんは「子どもが退院すると、同じ境遇の人と会う機会がなかった。どうやって治療を乗り越えたり、どんな生活をしたりしているのかなど、当事者同士で話せる場の必要性を感じた」とその意義を語る。ゆくゆくは営業していない昼の時間などを当事者のために活用する予定だ。

 人生一度きり

 2019年7月、当時1歳だった當間さんの長男(4)が急性前骨髄球性白血病だと判明。すぐに7カ月間の入院生活が始まった。当時警察官だった當間さんは休職し、妻の沙稀さん(30)は退職して闘病に付き添った。

 退院後は復職したが、朝は早く夜は遅く帰る生活で、なかなか家族と過ごす時間を取れなかった。仕事は頑張りたいけれど、家族との時間も大切にしたい―。その狭間(はざま)で揺れた。だが一時は命の危機に陥ったわが子のことを思うと、家族と過ごせる時間に限りがあることに気づかされた。「人生は一度きり。やりたいことをやろう」と20年12月に退職。家族や職場は決断を快く受け入れ、背中を押してくれた。

 その後、高校卒業後も親交のあった松村さんが立ち上げた会社「AVENTURA WORKS(アベントゥラ ワークス)」に転職した。闘病の経緯を知る松村さんの理解と協力も得て、家族との時間を大切にしながら働けるようになった。

 「オキバル」はスペインのお酒や軽食を出す飲食店「バル」に着想を得て、松村さんが構想した。そこに「小児がん当事者の集まれる場所を作りたい」という當間さんの思いを重ね合わせ、当事者のための場にしようと決めた。思いを発信してクラウドファンディングで資金を募ると、大勢の人が店のコンセプトに賛同し、計150万円の目標金額にすぐに達することができた。

 寄付団体も創設

 またオープンに合わせて、小児がんを患う子どもや家族の支援と、小児がんの治療をしている医療機関に寄付や寄贈をする団体「オキバルキッズ」も創設した。松村さんは「オキバルはただの飲食店ではなく、人と人がつながれる場所。今後も事業を通して社会貢献していきたい」と先を見据える。

 息子の治療はことし3月に終了した。現在は経過観察中で、経過は良好だ。當間さんは「今後何があるか分からないけれど、今の時間を大切にしたい」と前を向く。息子の治療中に大量の輸血を必要としたことから、献血や骨髄ドナーの大切さも実感したという。「息子のおかげで、自分が行動するだけで一人でも多くの命が救えることを知れた。今後はそうした自分の経験や思いもどんどん発信していきたい」と語った。「オキバル」の詳細はhttps://okinawa-bal.aventura-works.com/から。
 (嶋岡すみれ)