伊藤詩織さんインタビュー「同意のない性交は犯罪、法に明記を」 被害認定の判決が確定、5年間とこれから


社会
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インタビューに答える伊藤詩織さん

 ジャーナリストの伊藤詩織さん(33)が、2015年に元TBS記者から性被害を受けたと認定した民事訴訟の判決について、今年7月に最高裁の決定で確定した。実名で性暴力問題の深刻さを訴えた伊藤さんに、性被害をなくすための課題や、訴訟を通じて感じた社会の変化などについて聞いた。 (共同通信編集委員 佐藤大介)

 民事訴訟を起こし、判決が確定するまで5年近くを要するとは思っていませんでした。裁判は一つのピリオドとなりましたが、性被害をなくしていくためには、まだ多くの課題があります。そうした意味では、新たなスタート地点に立ったとも感じています。

 被害者が捜査機関に相談するには、精神的に大きな負担が伴います。被害に遭った人のうち、捜査機関に届け出た割合が1割程度にとどまっており、心理的なハードルの高さがわかります。性暴力という重大な犯罪が、捜査されないままでいるのは恐ろしいことです。

 この背景には、同意のない性交を罰する法律がないという問題があります。著しい暴行や脅迫を被害者側が証明できなければ、強制性交罪が成立しないとされており、恐怖で体が動かなかった場合など、加害者を罪に問えなくなってしまいます。「同意のない性交は暴力であり、犯罪だ」と法律に明記することが、被害を訴えるハードルを下げることにつながります。

 実名を公表して自らの被害を語ることは、大きなプレッシャーがありました。予想以上の誹謗(ひぼう)中傷に恐怖を感じ、体がどんどん冷たくなっていくのがわかりました。でも、それで私が倒れたら「被害を語ると、こうなってしまう」と思われかねません。多くの人に支えられながら、なんとか立ち続けてきました。

 2017年に、性暴力を告発する「#MeToo」運動が起き、被害を受けたことを語れる雰囲気が社会にできていったのは、とても大きなことでした。話すことのできない経験がある人も、第三者の話を聞くことで、自分の中で言葉にすることができます。

 私が声を上げた後、ある女性から、過去に同じような経験をしたとのメールをもらいました。「20年間、誰にも話せなかったけれど、今回あなたに話すことができた」と記されていて、よかったと思う一方、それほど長い間、心の中にしまってきたことのつらさを考えました。

 この間、メディアの扱い方には変化があったと思います。取材現場にいる多くの女性記者からは、何らかの形で性被害に遭ったことがあるとの話を聞きました。彼女たちが、試行錯誤をしながら性被害関連の記事を書こうとしている姿に、とても勇気づけられました。

 ベテランの記者から「後輩に性被害を相談され、『そんなことを考えていたら仕事にならない』と言ってしまったことを反省している」と打ち明けられたこともあります。性暴力だけではなく、さまざまな形での暴力に対する社会の意識が変わってきたと実感します。

 今後も、性暴力にどう向き合うかは、自分にとって重要なテーマです。人権という観点から、ジャーナリストとしてこの問題に関わっていきたいと思っています。


不起訴受け民事訴訟に

 伊藤詩織さん(33)は2017年9月、元TBS記者山口敬之さん(56)から性暴力で身体的、精神的苦痛を受けたとして、山口さんに1100万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴した。準強姦(ごうかん)容疑で警視庁に被害届を出したが、東京地検は嫌疑不十分で不起訴としたことから、訴訟に踏み切った。

 今年1月、高裁判決は「同意がないのに行為に及んだ」と認め、山口さんに332万円余りの支払いを命じた。一方、被害を告白した著書などで、薬物を使われた可能性があると記したことに「真実性が認められず、名誉毀損(きそん)に当たる」と判断し、伊藤さんに55万円の支払いを命じた。最高裁が7月7日付で双方の上告を退け、判決が確定した。

 伊藤さんは裁判で、性被害者が泣き寝入りしない社会にしたいと繰り返し主張してきた。

 被害を実名で訴え、その言動は性被害に立ち向かう日本の「#MeToo」運動に大きな影響を与えた。

 一方、インターネット上で「売名」「ハニートラップ」といった攻撃や誹謗(ひぼう)中傷を受けた。被害者を再び傷つける「セカンドレイプ」をなくすために民事訴訟を起こし、投稿者側への賠償命令も出ている。

 先月20日の記者会見で、伊藤さんは「被害はいつ誰の身に起こるか分からない。当事者として声を上げた意味はあった」と話している。