歴史変動と知事選 沖縄の平和 強化する政策を<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 県知事選に関する報道が日本の新聞でも増えてきた。辺野古新基地建設問題が争点であると、いずれの新聞も書いているが、どの新聞の行間からも中央政府が新基地建設を決めている以上、沖縄はそれを受け入れるしかないという認識が透けて見える。沖縄人が辺野古新基地建設について諦めていると多くの日本人は勘違いしている。

 保守・革新という二項対立の枠に収まらない優れた沖縄の知識人である大城立裕氏は、辺野古新基地建設について沖縄は諦めているのではなく我慢しているのだと喝破した。そして「琉球処分」(中央政府による琉球王国[藩]の廃止と沖縄県設置)以降、沖縄人はヤマトとの関係で我慢し続けているのだと言った。

 大城氏は沖縄人の内在的論理を日本語で正確に表現できる知識人だった。我慢している沖縄人は、自らの希望がかなうタイミングが到来することを待ち望むとともにその状況が来るように日々努力を重ねているのだ。こういう沖縄流の闘い方が日本人にはなかなか理解できないようだ。大城氏の遺産を継承していくことが、筆者にとっても重要な課題である。

 今回の県知事選挙を国際秩序の転換との文脈で位置付けることが重要と考えている。特に重要な与件の変化がウクライナ戦争だ。ロシアにどのような理由があろうとも、隣国ウクライナに武力侵攻することは間違っている。ロシアの行為はウクライナの国家主権と領土の一体性を毀損(きそん)する国際法に違反する行為だ。

 同時にウクライナを支援する米国にも大きな問題がある。米国はウクライナ戦争で米国人の血が流れることを望まない。米国がこの戦争に直接参戦しないことはもとより、ウクライナへの武器支援においても、戦闘がエスカレートしてウクライナがロシア本土を攻撃しない範囲内でしか行わないというルールを設定している。

 ウクライナ軍が米国から提供された武器を用いてロシア本土を攻撃する事態になれば、ロシアは米国を交戦国と認定する。その結果、ウクライナ戦争は、米ロ戦争に発展する。さらに米国の背後にNATO加盟国を含む多くの西側諸国(そこには日本も含まれる)がいることを考えると第3次世界大戦となる可能性が高いのだ。

 ロシアと直接戦争しないという条件で米国によって「管理された戦争」によってウクライナが自国領からロシア軍を完全に放逐することは不可能だ。この戦争によって、ウクライナの民衆は77年前に県民が経験したのによく似た防衛戦を余儀なくされているのだ。この戦争を一刻も早く終わらせ、これ以上、犠牲者が出ないようにするとともに、第3次世界大戦を防止することがわれわれに課された焦眉(しょうび)の課題だ。

 どの候補者も、沖縄を二度と戦場にしないという共通認識を持っていると思う。ただし、沖縄人の希望と別の政治ゲームで、沖縄が戦場になる可能性が排除されないというのが、現下の国際情勢だと筆者は認識している。ウクライナ戦争におけるちょっとしたボタンの掛け違いが、第3次世界大戦を誘発し、それが東アジア情勢を大きく変化させる。沖縄人の自己決定権を強化し、現実的に平和を強化する政策をとることができる候補者に当選してほしいと筆者は願っている。

(作家・元外務省主任分析官)