障がい者の投票、困難な状況を見えるように 壁をつくっているものは<取材ノート・新聞週間2022>2


社会
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一部の自治体のみで導入している点字の選挙公報と音声データの入ったCD。他の自治体に拡大していくことが求められている=県庁

 「有権者として意識されていない」。9月11日の沖縄県知事選と統一地方選に合わせて、障がいがある当事者に投票時の困難さを聞いた。多くの人が自然に意識する有権者としての感覚を、十分に抱けていない現状があった。取材を通して「障がい者」として報道する意味を考えさせられた。

 普段は障がいや病気がある人の日々の生活を掘り下げる本紙連載「てぃーだ」を担当している。仕事をする上で気を付けていることや今後の目標、趣味などを聞く。共通の趣味の話題で盛り上がったり、社会人の先輩として学んだりすることも多い。「てぃーだ」の取材をしていると障がいがある人とない人の境界がぼやけてくる。

 一方、投票時の困難な状況を聞いていると、障がい者への配慮不足が見えた。視覚・聴覚・知的障がいがある当事者に話を聞いた。どの当事者からも「分かりやすく情報を届けようとする工夫はわずかしかない」との指摘があった。

 投票所や投票ブースについても、使いづらさや援助の不十分さがあり「投票意欲がそがれてしまう」という話もあった。選挙権は等しく国民に与えられているにもかかわらず、当事者の中には不在にされている感覚がある。

 投票時の困難を解消するための要望も聞いた。争点をまとめた音声資料の作成や、投票所での分かりやすい指示、日頃の困りごとを公約と結びつける取り組みの拡充などが挙げられた。障がいの有無にかかわらず、多くの人にとって投票しやすくなる工夫だった。再び障がいの有無の境界線はぼやけた。

 障がいがあっても、あらゆる人と同じように日常を楽しんでいる。しかし抱える困難の量は大きい。困難を可視化する、不在を存在に変える点で「障がい者」として取り上げる意味は大きいように思えた。

 障がい者の中には表現することが苦手で話を聞くのに工夫が必要な人もいる。声を発しても社会の中で小さく扱われることもある。それでも声を引き出し、当事者の視点で社会を見つめてみる。不変のように思えた境界線はぼやけ「何が境界をつくっているのか」を考えるきっかけになる。その機会を多くの人に届けていきたい。

(金盛文香)