差別の歴史をコミカルに 「人類館」を現代的にアレンジ 復帰50年企画、那覇で上演


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陳列された男(右・仲嶺雄作)と女(今科子)を指して「琉球人」の特徴を説明する調教師風の男(中央・西平寿久)

 沖縄「復帰」50年特別企画「喜劇 人類館」(知念正真作、佐藤尚子・知念あかね演出)が3~6日、那覇文化芸術劇場なはーと小劇場で上演された。「人類館」は、大阪で1903年に開催された第5回勧業博覧会会場近くの見せ物小屋で、琉球人らが展示された「人類館事件」をモチーフにした76年の作品。今回の公演は喜劇的要素を強調し、現代の人々に受け入れやすい作品に仕上げた。3日公演を取材した。

 調教師風の男(西平寿久)が観客に向かい「人類普遍の原理に基づき、全て人間は法の下に平等」などと口上を述べる場面から始まる。沖縄風の小屋には、沖縄の女(今科子)と男(仲嶺雄作)が「陳列」されている。調教師風の男は「無知を一層し、偏見を正し、差別をなくするには―」とし、陳列された男と女の特徴を説明する。

 調教師風の男は、身体の特徴や言語の特徴、「精神病患者が多い」などと捉えようのない内面の特徴を述べ、「正論」の下にそれらを矯正しようとする。やがて物語は、沖縄戦下や米統治下の沖縄へと時代を変え、登場人物の役、力関係をときに倒錯させ、「差別の構造」を描きだす。

手にした手りゅう弾(芋)で自決しようとする男ら(左から西平、仲嶺、今)=3日、那覇文化芸術劇場なはーと小劇場

 仲嶺は、調教師にいじめられたり、陳列された女に裏切られたりする場面などで、卑屈でありながらもどこか憎めない芝居で笑いを誘った。日本軍人(西平)と地元の男(仲嶺)のやりとりは緊迫感が伴う場面だが、西平との息の合った動きに、思わず噴き出させられた。科子は声や表情を巧みに使い分け、若い女性や老婦人を演じ分けた。作品の性質上、大いに笑うことは難しかったが、見やすい芝居で、複雑な物語を最後まで楽しませた。

 初演時に「陳列された女」を演じた今秀子は終演後、「人類館は、言葉一つとっても地域ごとに違いがある沖縄で、歴史や風俗を通じ、当時の人々が広く共感できる『沖縄』が描かれている。あらためて人類館が観客の前で上演されて良かった」と、若い出演者らの挑戦をたたえた。その上で「観客ごとに『喜劇』をどう捉えるかが問われる。私が出演していた頃は、中部では笑いが起き、那覇ではなかった。笑いが起きないことが失敗なのではない。笑えなかった人々も、深刻に沖縄の状況を捉えてくれていたのだと思う」と振り返った。

 「人類館」が発表された当時は、まだ本土からの沖縄差別が露骨に残っていた。復帰運動やベトナム戦争下の沖縄を経験した世代も現役で、物語に共感しやすかったことは想像に難くない。時は流れたが、「差別は繰り返される」と示唆して終わる同作そのままに、今も沖縄は、「正論」を振りかざす一部の人々に冷笑されている。「正論」の裏に潜むごまかしを痛烈に皮肉りながら、その手強さをも同時に描く同作は、今も大きな課題を私たちに投げかけている。
 (藤村謙吾)