岸田「深海魚」政権 日本の弱体化憂い大連立も<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 20日、岸田文雄首相は政治資金などの問題が相次いで明らかになっていた寺田稔総務相を事実上、更迭した。

 本紙は23日の社説で<一連の問題はあまりにもずさんである。まして寺田氏は政治資金や選挙を所管する総務相だった。昨年の衆院選で運動員の買収があったとも指摘されている。寺田氏の説明を待つのではなく、徹底して国会で調べるべきだ。/岸田首相は当初、寺田氏に説明責任を果たすよう求めるだけで、事態収束にはなかなか動き出さなかった。問題が起きても続投させる首相の態度は先の山際、葉梨両氏の更迭に踏み切る前も同様だった。野党から激しい追及を受けてから辞めさせることを繰り返しており、決断力を欠いている。

 /閣僚辞任のたびに聞かれる「任命責任」の言葉があまりにも軽く聞こえる。今回も岸田首相はその責任を「重く受け止める」と言及した。どのように果たそうとしているのか。更迭のみでは高まる国民の政治不信を拭うことはできない>と厳しく批判したが、その通りと思う。

 こういう出来事があると「岸田政権は閣僚を任命するに当たって身体検査をしているのか」という指摘がなされる。身体検査をする能力も政権の実力だと筆者は考える。

 日本政府には政治家の個人情報を一括して管理しているような組織はない。前科、前歴があるならば警察庁や法務省のデータベースに記録が残っているので、首相はその情報を得ることができる。

 筆者の経験に照らして言うと、いわゆる身体検査に関する情報のほとんどは、新聞記者(特に地方紙の記者)や週刊誌記者、あるいは情報ブローカーによるものだ。その中には為(ため)にするものや不正確な情報も少なからずある。不確かな情報の裏を取るときには、警察や公安調査庁に尋ねることもある。

 いずれにせよ首相自身がこのような身体検査を行う時間的余裕はないので、首相が信頼する補佐官や秘書官、あるいは同じ派閥に属する国会議員がこのような裏仕事に従事する。岸田首相の周辺に裏仕事を得意とする人がいないことが、ひと月で閣僚が3人も辞任するという異常な事態を引き起こしたのだと思う。

 現在、国会では衆議院も参議院も与党が過半数を占めている。ねじれも生じていないのにこれだけ多くの閣僚が辞任に追い込まれるというのも前代未聞だ。それでも岸田政権が崩壊の危機にひんしているわけではない。それは野党が弱すぎることと自民党にこれといった首相候補がいないからだ。岸田政権を見ていると「深海魚」を思い浮かべる。

 この政権は、海の底のような30%台の低い支持率でも安定して生きていくことができる独特な生態系を作り出してしまったのかもしれない。しかし、辺野古新基地建設問題、ウクライナ戦争や北朝鮮のミサイル発射、あるいはインフレ対策は海面上で起きている出来事だ。このまま日本が弱っていくことを放置できないと考える有権者が増えてくると思う。直ちに政権交代はできないとしても、大連立によって国難を乗り越えるべきとの声が出てくるかもしれない。

(作家、元外務省主任分析官)