大宜味で唯一のノロ、山城さんが死去 102歳、地域の安寧祈り89年 「塩屋湾のウンガミ」行事つかさどる


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「塩屋湾のウンガミ」で来訪神の神送りをするノロの山城トヨさん(中央)と神人の女性ら=2007年ごろ、大宜味村(中村嘉子さん提供)

 【大宜味】大宜味村で唯一のノロ(神女)・山城トヨさんが9日、102歳で亡くなった。13歳でノロになって89年、国の重要無形民俗文化財「塩屋湾のウンガミ」をはじめ塩屋周辺の拝み行事をつかさどってきた。最期まで使命を貫いたトヨさんを関係者がしのんでいる。

 トヨさんは同村田港生まれ。1933年、前任者の死去に伴いノロになった。35年には当時の井野次郎知事からノロに任命されたとの記述が地元資料に残る。ウンガミの神事でノロが使うまがたまや絹の衣装は数百年にわたり受け継がれており、戦時中、トヨさんはこれらを抱え空襲から逃げたという。

 戦後はミカンの卸業などをしながら、ノロとして毎月の拝み行事を取り仕切った。長女の中村嘉子さん(68)は「面倒見がよく働き者。80歳を過ぎてもトラックに乗り働いていた。ノロは重責だが、愚痴をこぼしたことはなかった」と振り返る。

 トヨさんは晩年、村内の高齢者施設に入所していたが、97歳だった2018年まではウンガミを取り仕切った。今年3月に田港のアサギなどが新築された際、トヨさんは施設の新型コロナ対策で神事に参加できず、代理を立てたが、後日「どうしても自分で祈りたい」と職員に頼んでアサギに出向き、車内から熱心に祈願したという。嘉子さんは「使命感を忘れなかった。今ごろ肩の荷を下ろし『むなーくなった(ほっとした)』と言っているのでは」とほほ笑む。

 ノロは終身制で他薦はできない。トヨさんの後任は現時点で不在だ。14年に若ノロに就任した女性は現在50代。若ノロと70代以上の神人(カミンチュ)3人で当面、伝統を引き継ぐことになる。まがたまや衣装は村に寄託する予定だ。明治大学兼任講師で塩屋湾周辺の民俗を研究する石川浩之さん(58)=同村塩屋=は「ウンガミはトヨさんの使命感で続いてきた。次を担う若ノロが誕生し、トヨさんは安心していたと思う」と語った。

 神人の湧川ツヤ子さん(77)=同村塩屋=は「トヨさんからいろんなことを教わった。私も使命をしっかり果たしたい」と語った。
 (岩切美穂)