格差解消へ「企業が教育に力を」 人材活躍へ「“出る杭”伸ばす社会に」 沖縄の未来を議論 琉球新報・NHK復帰50年シンポ<上>


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 沖縄の日本復帰50年を記念して、琉球新報社とNHK沖縄放送局は21日、シンポジウム「50年後の沖縄へ 守るべきもの・変えたいこと」を那覇市の琉球新報ホールで開催した。貧困問題や人材育成など沖縄の課題について、若手の経営者やアーティスト、学者ら5人のパネリストが、それぞれの経験に基づく視点で語り合い、望ましい将来像を探った。討議の詳細を紹介する。 (文中敬称略)

パネルを使って議論する(左から)レキサス社長の比屋根隆氏、歌手の島袋寛子氏、東京大准教授の斎藤幸平氏、上間フードアンドライフ社長の上間園子氏、まちづくりファシリテーターの石垣綾音氏=21日、那覇市泉崎の琉球新報ホール(小川昌宏撮影)

<貧困と格差 解消のためには>

企業が教育に力注いで 比屋根氏

 島洋子 復帰50年の沖縄に関するNHKの世論調査で、沖縄にとって特に重要な課題は何かを聞くと、圧倒的に貧困や格差の解消だった。私たちに突きつけられた重要な課題だ。

 島袋 子どもの頃は裕福ではなかった。親が一生懸命働き、夢を追いかけさせてもらったので、今まで言ってこなかったが、生活は苦しかった。私は歌手になったらお金持ちになれると思って頑張った。大変だったが私は恵まれていた。親への感謝が大きい。

 比屋根 学生を選抜し、ゼロから1をつくり出す考えを養うプログラム「琉球フロッグス」に取り組んでいる。世帯年収200万円未満の高校生が一番成長した。高卒で働きたいと言っていたが、今は大学に通い、将来はシリコンバレーで働き、沖縄の貧困を解決したいと言っている。子どもを応援できる家庭ばかりではないので、企業が教育にエネルギーを注ぐことが大事だ。

 上間 私も昔は貧乏だったが、自分自身で貧困と気付かなかった。貧困と気付いたのは大人になってからだ。気付いた時に、貧困の反対側はどんな景色なのだろう、と思った。環境は周りが整えてくれるが、その先を突破できる人はなかなかいない。環境だけでなくマインドの形成もセットで考えてほしい。

 石垣 「貧困の反対側の景色」を問い直す時期に来ている。環境を破壊するようなライフスタイルを望むのであれば、本末転倒だ。豊かさを問い直し、何が満たされていると貧困ではないのか、格差がなくなるとはどういうことなのかを考えないといけない。

 斎藤 周りが応援し、成功する人が出るのは素晴らしいが、うまくいかない人もたくさんいる。うまくいかなくても自己責任ではない。なぜなら、平等ではないからだ。構造的な格差があるのに、格差を無視してマインドの問題にするのは本質を隠蔽(いんぺい)することになる。戦後のアメリカの支配や、復帰後も残った米軍基地の問題、基地があるために第3次産業に偏重している問題も考える必要がある。貧困や格差の問題を論じる際には、このような問題を含め、どう変えるかを考えないといけない。そして、東京に住む私にも、この問題の責任がある。

 


<多様な人材が活躍できるには>

「出るくい」伸ばす社会に 上間氏

  多様な人材が活躍できる社会をどうつくっていけばいいか。

 上間 抜きんでた能力を持つ人を周りが押さえ込んでしまい、本人が萎縮してしまうという状況をよく見た。沖縄はコミュニティーが狭く、みんな横並びで一緒に歩いていこうという温かい優しさがある一方で、出るくいは打たれる風潮がある。

 比屋根 個性や特性を持った人に対する、企業の採用方法を考え直す必要がある。多様な人材に合わせた多様な働き方作りをすれば、もっとたくさんの人が働けるようになる。

 斎藤 SDGsや多様性が、マジョリティーが都合よく振る舞うための道具になっていないか。

 石垣 多様性は誰かに認められるものではなく、すでに存在している。自分がマジョリティーであるということを自覚し、相手の行動を理解しようとするのが多様性を理解することにつながる。

 島袋 人は人だ。障がいという言い方も好きではなく、個性だと思う。

 斎藤 障がい者が企業で働けるのはいいが、お金を稼げない人も生きていていいことを認めることが多様性だ。

 比屋根 学校、家庭の中だけで教えられることには限界があるので、社会が子どもたちに寄り添い個性を引き出すことが大事だ。教える教育から、共に育つ教育に変わっていくと思う。

 上間 私は私だ。私もLGBTの当事者だが、話題として捉えることに違和感がある。アファーマティブ・アクション(マイノリティーの置かれた差別や格差を是正する積極的措置)に関してどう考えるか聞きたい。

 石垣 今は自分の置かれた環境を何ともないと思っていても、女性が家庭で仕事をしなければならないなどの事実に気付いた人がいて、アファーマティブアクションが生まれている。その恩恵を受け、自分に何ができるか考えることができるようになった。

 斎藤 ジェンダーや環境問題などを含め、今の世代が変えられなかったことを若い世代に託すのは良くない。


 

<登壇者>

 【パネリスト】
 石垣綾音氏(まちづくりファシリテーター)
 上間園子氏(上間フードアンドライフ社長)
 斎藤幸平氏(東京大准教授)
 島袋寛子氏(歌手)
 比屋根隆氏(レキサス、うむさんラボ社長)
 【コーディネーター】島洋子・琉球新報編集局長
 【司会】荒木さくら・NHKアナウンサー