N響や読響、復帰50年で公演 渡久地圭<22年県内年末回顧・クラシック>


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ファビオ・ルイージの指揮でリムスキー・コルサコフの交響組曲「シェエラザード」作品35を演奏するNHK交響楽団=5月29日、宜野湾市の沖縄コンベンションセンター劇場棟(田中芳撮影)

 新型コロナの影響も3年目となり、徐々に舞台活動も不安やストレスが少なくなり、聴衆もゆるやかに戻ってきているという実感のある1年。県内の公演もぐっと増えてきているが、足を運べた回数が少なくお許しをいただきたい。

 感染者急増で舞台がストップした年末年始を経て2月から、なはーと「みんなのクラシック」が再開し3月までさまざまな組み合わせで展開した。2月、若い奏者たちがC Brassウインドオーケストラの立ち上げ公演をクラウドファンディング(CF)も成功させて実施。会場やCFの熱気に比すると軽さが印象的な内容だったか。今後に期待したい。

 3月にはピアニストの仲村渠悠子がショパンの全ピアノ作品を取り上げるチクルスをスタート。ショパンの祖国への思いが世界情勢を背景により強く響いた気がした。翌4月ピアニスト秋元孝介が佐喜眞美術館でロシアの作曲家を取り上げるリサイタルを開催し、繊細かつ厚みのある音色でロシアの自然や人の暮らしを描いた。

 復帰50年を迎えた5月には、読売日本交響楽団とNHK交響楽団の沖縄公演が実現。N響のみ聴けたが、新首席指揮者ファビオ・ルイージのアプローチはこれがN響?と思わずにいられない伸びやかさとフレッシュさをオーケストラから引き出し、ピアノソリストの小菅優も素晴らしく熱演となった。

 6月、琉球箏の池間北斗が独演会を開催。クラシックの作曲家が書き下ろした新作を暗譜で初演し楽器と彼自身の奥行きのある可能性を披露した。

 7月本部町で開催された三浦一馬バンドネオンコンサートは地元出身の音楽家や琉球芸能の実演家とコラボし、クラシックからピアソラ、沖縄曲まで立体感のある演奏を見せた。

 夏はオーストリアの音楽祭に出かけ留守に。10月は東京でアジア・オーケストラ・ウィークに琉球交響楽団が登場。プログラムや各作品のコンセプトの輪郭がぼやけ、もう一歩の深みに今後ぜひ期待したいと思ったのと対照的に、フィリピン・マニラ交響楽団は自分たちの語り口とも言えるような独自のフレーズ感、音の向かう先への集合感など、彼らにしか出せない表現でひきつけた。

 技術は琉響が確かだと思っただけに、オケの向かう方向や独自のコンセプトに期待するところだ。

 沖縄でもリサイタルを開き、10月からベルリンフィル首席となったフルーティスト、セバスチャン・ジャコーがソリストの水戸室内管弦楽団の公演を水戸市で鑑賞。どこまでも自然体でチャーミングなモーツァルトを心底楽しんだ。11月、ギタリスト大萩康司が「祈り」をテーマに組んだプログラムを佐喜眞美術館で披露し聴衆とともに心地よい集中力がみなぎる空間をつくった。

 沖縄オペラアカデミー主催のシンポジウムは演出家粟国安彦氏を通し沖縄のオペラ受容を振り返る好企画だった。

(ビューローダンケ代表)