台湾有事の際、日米同盟は米国益の軍事介入ツールに 布施祐仁氏 <12月18日のシンポに寄せて>


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米海兵隊のオスプレイで奄美大島から移動し、担架でけが人(想定)を米軍基地内に搬送する自衛隊員ら=15日午後2時20分、米軍キャンプ・フォスター(ジャン松元撮影)

 今の日本の「大軍拡」の流れは1980年代によく似ている。

 79年にソ連がアフガニスタンに侵攻して以降、米国は「ソ連の脅威」を強調し、大軍拡を進めた。同時に同盟国である日本にも負担を求め、日本もそれに応えて防衛費を大幅に増やした。

 当時の中曽根内閣は三木内閣が76年に閣議決定した防衛費の「GNP(国民総生産)1%枠」の縛りを廃止し、87年度には1%を突破した。

 防衛費を増やすだけでなく、自衛隊の任務も拡大した。有事の際、石油などを輸入する海上交通路(シーレーン)を自ら防衛するという理由で、日本から1000カイリまでの防衛を新たに担うこととなった。

 中曽根内閣もまた「ソ連の脅威」を強調し、防衛費の大増額と自衛隊の任務拡大を進めた。しかし、当時の米国は、日本がいきなりソ連の侵略を受ける事態はまったく想定していなかった。

 米国が想定していたのは、中東で米ソの軍事衝突が起き、それが日本に波及する事態であった。中東有事が発生した際、米国は極東ソ連軍の基地を攻撃し、ソ連の太平洋艦隊を日本海に封じ込めるために宗谷、津軽、対馬の3海峡を封鎖する作戦構想を立てていた。その結果として、日本も戦争に巻き込まれるリスクが生じたのだ。

 日本政府が「日本の商船を守るため」と国民に説明していた「シーレーン防衛」も、実は極東ソ連軍への攻撃に向かう米空母機動部隊をソ連軍の潜水艦の脅威から守るのが目的であった。当時の外務省の機密文書には「米海軍は日本によるシーレーン防衛は実は第7艦隊の防衛だと内々に説明」と記されている。

 つまり、1980年代の日本の軍拡は、中東で米ソの戦争が起きた時に米国を支援することが主な目的だったのである。

 岸田内閣が進めようとしている軍拡も、これとよく似た構図になっている。

 現在も「中国の脅威」が強調されているが、米国が想定しているのは、中国がいきなり日本に侵略する事態ではなく、台湾海峡で米中の軍事衝突が起き、それが日本に波及する事態である。台湾有事の際、米軍は日本を策源地として中国への攻撃を行い、米軍と自衛隊が一体となって南西諸島にミサイル網を構築して中国海軍を東シナ海に封じ込めようとする作戦構想(これも米空母機動部隊の防衛が主目的)を立てている。その結果、日本も戦争に巻き込まれるのである。

 「敵基地攻撃」という自衛隊の任務拡大も、台湾海峡で米中の戦争が起きた時に米国を支援することが主な目的である。

 かつて、米議会で「米軍が日本にいるのは、日本を防衛するためではない。米軍にとって日本駐留の利点は、必要とあれば常に出撃できる前方基地として使用できることである」と答弁した国防長官がいた(チェイニー国防長官、92年3月5日の上院軍事委員会)。

 この言葉に示されているように、米国にとって日米同盟は日本を防衛するためのものではなく、米国の国益のための軍事介入のツールなのだ。そして今、まさに台湾有事への軍事介入のツールとして日米同盟が使われようとしている。

 日米が台湾有事に軍事介入すれば、先島諸島をはじめ沖縄が「戦場」になる可能性が極めて高い。これは、沖縄が米国の台湾防衛作戦のための「捨て石」にされることを意味する。そんなことは絶対にあってはならない。台湾有事を起こさないための外交に全力を尽くす。それでも万が一、起きてしまった場合でも、日本の国土を戦場にしないための方策を全国民で真剣に考えなければいけない時にきている。(ジャーナリスト)


 シンポジウム「戦争準備を知る、声を上げる、止める」が18日午後1時30分から那覇市古島の教育福祉会館で開かれる。弁護士の海渡雄一氏が「防衛3文書と防衛予算」を中心に「大軍拡と敵基地攻撃能力で戦争を止められるか」と題し、基調講演する。琉球新報の明真南斗記者、映画監督・ジャーナリストの三上智恵さんが「日米共同統合演習」の取材報告を行い、討議する。参加無料、120人。事前申し込みは、電話090(2716)6686(新垣)。「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」ユーチューブに後日、アップする。