脅威誇張で過剰増強 布施祐仁氏(ジャーナリスト)<沖縄の視点から安保3文書を読み解く>②


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布施 祐仁氏(ジャーナリスト)

 新しい国家安全保障戦略は「反撃能力」の保有をはじめ「防衛力の抜本的強化」を決めた。同文書は「こうした防衛力を保有できれば、米国の能力と相まって、わが国への侵攻のみならず、インド太平洋地域における力による一方的な現状変更やその試みを抑止」と記している。日本への侵攻だけでなく、日本国外での「力による一方的な現状変更」も抑止するというのだ。

 米国が日本に期待しているのは後者の方である。念頭にあるのは「台湾有事」だ。中国の台湾侵攻の抑止に、日本も参加することを期待している。岸田内閣はこれに全面的に応えようとしているように見える。

 2015年の安保法制で集団的自衛権行使が可能となった日本が「反撃能力」(具体的には中国本土に届く長射程ミサイル)を持てば、中国は台湾有事で日本がそれを使う前提で対処するだろう。日本がミサイルを撃てば当然報復してくるだろうし、「日本が攻撃に着手した」と見なして先にミサイルを撃ってくる可能性も高まる。

 岸田文雄首相は、たとえ日本に大量のミサイルが降ってくるような事態になったとしても、米国と一緒に台湾を防衛するべきだと考えているのかもしれない。しかし、現段階でそのような国民的な合意は存在していないし、説明すらなされていないのが現実だ。

 そもそも、バイデン米大統領も「台湾侵攻の差し迫った試みがあるとは思わない」と発言している中、日本ではその脅威が誇張され過ぎている感は否めない。脅威を誇張し過剰な軍備増強を行うことは、緊張を高め、かえって武力衝突のリスクを高めてしまう危険がある。

 日本も台湾も戦場にしないために、緊張を和らげる方向で日本ができる外交がまだあるはずだ。来年1月に始まる通常国会では、外交の議論こそ期待したい。