政策転換への批判なく 佐藤学氏(沖国大教授)<沖縄の視点から安保3文書を読み解く>④


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
佐藤学氏(沖国大教授)

 「安保関連三文書」は、中国との軍事対決を前提に、沖縄県をその前線に立たせる方針だ。宮古、石垣、与那国を「反撃能力」のミサイル基地に仕立てる。加えて、水陸機動団と米海兵隊の一体作戦により、島々を移動して、ウクライナでの戦争で注目された高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」を運用し、中国に対する抑止力を構成するという。

 しかし、これは台湾有事への抑止力にはならない。今後、米国から500発の米国製巡航ミサイル「トマホーク」を購入し、敵基地攻撃能力を備えるというが、中国は既に2000発以上の沖縄と日本に届く中距離ミサイルを保有する。数の上で、勝負にならない。

 「反撃」が日本の先制攻撃と判断されれば、中国は日本全土を攻撃する正当性を持つ。仮に「反撃」が成立しても、中国が日本のミサイル着弾前に発射していれば、あるいは別な地点から撃てば、結局は防げない。「敵」は無能ではないのだ。

 県も市町村も、この政策転換に批判、抵抗をしていない。最前線となる宮古、石垣、与那国の3島は、この方針を歓迎しており、それへの住民からの広範な批判もない。

 島しょ部が戦場になれば、住民の命を守る方法はない。計10万人を超える3島の住民を、軍が大動員している中で、どう避難させられるのか。シェルターの建設を要求している当該首長もいるが、そのような大規模シェルターを、島内のどこに、どうやって建設するのか。陸路での輸送ができない島で、食糧と水をどれだけ備蓄できるというのか。そのような「危険な島」と宣伝して、観光をつぶしたいのか。このような姿勢は、現実を見ない「平和ボケ」そのものである。

 県が明瞭な反対姿勢を採らないのも、県内首長が米軍による基地、施設の目的外使用を容認するのも、自治体財政を沖振法により握られた脆弱(ぜいじゃく)性に理由の一つがある。玉城デニー知事がミサイル基地の配備に強く反対できなかった背景にも沖縄関係予算があるのではないか。予算という形で国に懐を握られている限り、辺野古の新基地建設だけでなく、自衛隊のミサイル配備も止められなくなる。 (政治学)