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子どもを産み育てる権利<伊是名夏子100センチの視界から>138


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
イラストも描き、手作りした結婚式の招待状

 北海道の社会福祉法人「あすなろ福祉会」が運営するグループホームで、利用者が結婚や同居を希望した際、不妊処置手術を行ってきたという衝撃的なニュースが飛び込んできました。この20年あまりで、8組16人が手術などを受けていたそうです。理事長は、手術を提案しただけで本人の意思に基づいていた、子育てがしたいという希望は1組もなかったと答えています。

 このニュースを聞いた瞬間、20代の私を思い出しつらくなりました。当時、講演会やインタビューで「これから何にチャレンジしたいですか?」と聞かれた時「子育て」と言えませんでした。もし言葉にしたら驚かれたり、反対されたりするだろうし、何よりできるか自信がなく不安でいっぱいで言えなかったのです。子育てが現実のものとなった今だから当時の思いを吐き出せますが、もし子育てができないままだったら、いまだにその思いには蓋(ぶた)をしていたかもしれません。

 障害のある人の子育てには多くの人が反対しがちです。大変そう、無理でしょ、なんでわざわざやりたいの、子どもがかわいそう、などの否定的な言葉をかけられます。親族や友だちだけなく、医療者にも、そう言われることがありました。また反対とまでは言わなくても、「大丈夫なの?」とネガティブに聞いてくる人もたくさんいました。

 だから私は同じ障害の人に話を聞き、婦人科検診を受けまくり、自分のことをサポートしてくれる産婦人科医を探し続けました。応援してくれる人、味方になってくれる人がいたら、その人にだけ思いを伝えました。反対する人、不安に思う人の対応をしていたら、私がつぶれると思い、普段は思いを隠し続けました。

 法律ではヘルパー制度の中に子育て支援も入っていますが、それを知らない、もしくはやらない自治体も事業所もたくさんあります。法律があっても守られていないのが、障害者の子育てです。不妊手術がいまだに行われているのなら、障害があっても、なくても、人は誰でも、子どもを生み育てる権利があること、サポートを受けることが大切だということを伝え続けていきたいです。大変そう、無理でしょ、と決めつける前に、どうやったら障害のある人も子育てができるかを考える人が増えてほしいです。親だけが背負うのではなく、みんなで助け合う子育てが広まったら、障害のない人にとっても子育てがやりやすくなると信じています。


 いぜな・なつこ 1982年那覇市生まれ。コラムニスト。骨形成不全症のため車いすで生活しながら2人の子育てに奮闘中。現在は神奈川県在住。