平和と安全こそオモテナシ 意識の隔たり 菅原文子さんコラム<美と宝の島を愛し>


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 冬季五輪の札幌招致に地元、北海道では過半数の56%が反対している。「日本世論調査会」の調査結果だ。同じ調査で全国の結果は「賛成、どちらかと言えば賛成」が57%。この世論の動向は、沖縄問題、福島原発事故問題(これら全てが国策によって進められた)と相通じるものがある。地元住民の意識と、日本全体の意識との乖離(かいり)だ。地元の意識は冬季五輪に関して言えば、それだけの税金をかけるなら、もっと他にやることがあるだろう、汚れたオリンピックはこりごり、北海道は人口当たりの医師数の格付けがCランクで、万が一コロナ禍が起きた場合など不測の事態への懸念もある。

 世界一危険な軍事基地普天間は、辺野古新基地が完成してから全面返還という日米政府の姿勢についても、同じ日本人ながら遠くに住む人々にとって取りあえずは他人ごととなる。生活実感が伴わないと人はなかなか心を動かさない。

 西村博之(ひろゆき)氏がわざわざ辺野古まで足を運んでくれたようだが、ついでに沖縄全土の戦跡、米軍基地の広さも実感してから発信してくれたら良かった。チラ見一見の軽口は、そこに命となりわいを預けて暮らす人々を傷つける。自分の見聞きしたことが、事柄の全てでないことは、世界を相手にビジネスをしている方なら日々実感するところだろう。神奈川県相模原市のご出身のようだが、相模原市も米軍機の騒音被害、補給廠(しょう)での爆発による火災など、基地の存在が住民に不安を与え、米軍基地移転は市政のテーマの一つとなっている。

 沖縄県の米軍基地面積は、相模原市の同面積の約43倍だ。この数字を見るだけでも、沖縄県外に住む人にも、そこに暮らす人々の懸念、危機感が伝わるはずだ。

 福島県の海沿いに並ぶ原発事故の汚染水は、ろ過し海に投棄するという政府方針が進められようとしている。福島県はもちろん、東北の太平洋岸に並ぶ各県の漁業者にとっては、なりわいに及ぶ風評被害、予測できない実害に危機感があるだろう。自分の住む所に汚染土や汚染水が持ち込まれない限り、その危機感は日本全体の世論を動かさない。これもまた他人ごとになっている。

 昭和の戦争が自国・他国に及ぼした惨劇も、福島原発事故が国土を広く汚した災厄も忘れ去られ、実感を伴わない歴史の一幕の記述となってしまうのか。米軍に思いやり予算を計上する日本、その思いやりは国策に翻弄(ほんろう)される同胞にも向けてほしい。日本人のオモテナシは世界で評判が良いが、平和と安全こそ日本ができる最上のオモテナシだ。

(本紙客員コラムニスト、辺野古基金共同代表)