【寄稿】沖縄ヘイト条例の意義と課題 ネットのモニタリング制度の導入を 師岡康子弁護士


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 差別的言動(ヘイトスピーチ)の解消に向けて、1日から一部施行された「県差別のない社会づくり条例」について、ヘイトスピーチ問題の第一人者である師岡康子弁護士に県条例の評価や課題について寄稿してもらった。

 「県差別のない社会づくり条例」が成立した。県には総合的な人権行政はないに等しかったが、本条例は人種や国籍、出身、性的指向、性自認などの属性も対象とする包括的な人権基本条例であり、出発点として大きな意義がある。差別根絶へ本腰を入れて取り組むためにも県組織には「人権部」の設置を求めたい。

 条例が設置する審議会は、差別のない社会形成に関する重要事項について知事の諮問がなくとも差別撤廃の見地から建議することができると明記された。人権機関として独立性を担保しており、高く評価できる。

 他方、条例制定の契機となった外国ルーツの人に対する差別的言動の抑止策は氏名公表制度にとどまった。都道府県レベルの同種の条例で氏名公表を明記したのは初めてであり、他の自治体が前例とする意義はある。ただ、名前を出してヘイト街宣を繰り返す人たちを止めるには実効性が弱い。同制度ではとどまらないことが明らかになった場合は見直しのめどである3年を待たず、川崎市の差別撤廃条例により実効性が実証されている罰則を導入すべきである。

 条例は抽象的な文言が多く、実効性ある条例とするためには積極的で具体的な運用を急ピッチで行うことが望まれる。県議会の議論で、県が1年目は被害者電話相談、2年目は実態調査を行うことが明らかになった。救済のためには相談のみならず、第三者機関による無料で非公開の救済手続きなどの実効性ある救済策の検討を審議会で行ってほしい。また、差別被害の実態把握のため、調査項目、調査方法などは専門家である審議会で検討してほしい。インターネット上の差別的言動を解消するため、ネットモニタリング制度を導入することが適切である。

 「沖縄ヘイト」については本来、人種差別撤廃条約上の義務として国が規制すべきところ、今回、県が差別的言動の解消に取り組むとの条項を入れたことに意義がある。今後、県が実態調査を行い、定義を明確化し、施策を具体化することが望まれる。