児相記録に「操作的な記述」 部分開示も、疑問点が多く 沖縄<里親解除 調査報告書を読み解く>㊦


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里親委託解除事案に関する調査報告書について説明する(左から)上間陽子副委員長、鈴木秀洋委員長、泉川良範委員=2月2日、県庁

 2時間近くに及んだ記者会見で、外部有識者3人による調査委員会は繰り返し強調した。「僕らは子どもの視点からの調査を徹底した。報告書を読んで、未来につなげてほしい」。那覇市の50代の夫妻が生後2カ月から5年以上養育した児童の里親委託を解除された問題で、調査委は2月2日、報道陣に最終的な報告書の概要を説明した。

 出席したのは委員長で日本大の鈴木秀洋准教授と、副委員長で琉球大の上間陽子教授、委員で名護療育医療センター医療顧問の泉川良範医師。報道向けに11ページの概要版を配布し、課題や提言などを語った。

 調査委は「現場の担当職員は懸命に寄り添っていた」としつつ、弁護士が前面に出て子どもや里親対応をしたことや、組織としてのマネジメント不足などがあったと問題点を列挙。子どもの気持ちを中心としたソーシャルワークの必要性などを提言した。

 会見後、本紙は県に報告書などの情報公開請求をした。当初は2月下旬に開示される見通しだったが、実際は3月30日だった。全36ページで、児相が県外に住む実親側の環境を考慮せず、児童を実親に戻そうとしたことや、「受け入れ自治体側が拒絶(特に令和3年7月15日以降)」したことも判明した。

 児相の経過記録の不正確さも明らかに。児相は21年9月、元里親に措置解除の時期を「1、2カ月後」と説明したと記録しているという。だが、元里親が録音していた音声では「実親が望めば即解除」と児相側が繰り返し発言した様子が残されていた。報告書は、こうした操作的な記述が他にもあるとし「誤った事実が積み重ねられることで全く異なったストーリーができあがり、事案が先鋭化した」と問題視した。

 開示されず、疑問が残る点も多々ある。報告書は、児童が「里親に会いたい、帰りたい」と繰り返したと記している。ただ、具体的な様子の記載があるとみられる部分は、黒塗りとなっている。さらに「議員への説明でも里親の印象を一方的に悪くする説明をしている」との項目は、全てが黒塗りだった。説明内容はおろか、どの議員に対するものかも不明だ。

 県特命推進課は「個人の権利・利益を侵害する恐れがある部分、経過報告書の抜粋、引用部分は黒塗りにした」と説明。今回の開示について「庁内でいろいろ意見がある中で、思い切って開示したという認識だ」と語った。

 児相の対応について、県青少年・子ども家庭課は「次年度は第三者の評価を取り入れ、子どもの意見をくみ取る仕組みづくりをしていく」と述べた。

 山梨県立大の西澤哲教授(臨床心理学)は、報告書の開示を「検証や報告が義務付られている虐待死亡事例ではないケースで、児相の措置権に関して検証されること自体珍しい。部分開示でも多くの問題が明らかにされた」と一定の評価をする。一方で、本来は子どもの適切な養育を担保するため児相に強い措置権があるとし「今回の事案は措置権の乱用に見える。解除が妥当だったのか、県や児相は説明責任を果たすべきだ」と述べた。


 多くの人々が心を痛めた里親委託解除事案の問題はどこにあるのか。本紙が情報公開請求し、開示された調査報告書から読み解く。

 


<用語>里親制度

 児童福祉法に基づき、さまざまな事情で家族と離れて暮らす子どもを里親が育てる制度。都道府県が行う研修を受け、適格性が認められれば里親登録ができる。子どもが実親の元に戻れるようになるまでの間、家庭に迎え入れる「養育里親」や、専門的な援助を必要とする子どもを養育する「専門里親」、養子縁組を前提とした「養子縁組里親」などがある。里親委託には親権者の同意が必要となる。里親と子どもに法的な親子関係はなく、里親や子どもの意に反して委託が解除され、里親の元から子どもが離される事例もある。