治療薬の進歩 多剤併用から注射薬まで <じぶんごとで考えよう HIV/エイズ>9


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 HIV感染症の治療は原因不明の病とされていた時代から、多くの治療薬が開発された現在に至るまで、劇的に変化しています。

 HIV感染症は、当初「死に至る病」として恐れられていましたが、1987年に初めての抗HIV薬となる「ジドブジン」が開発され、治療に使用できるようになりました。ジドブジンのみで治療を続けると、次第に薬剤の効果が減弱してしまう(薬剤耐性)問題がありましたが、新たな治療薬が次々に登場し、複数の抗HIV薬を組み合わせて使用する多剤併用療法が行われるようになってからは、治療効果が飛躍的に向上しました。

 現在では2~3種類の抗HIV薬による内服治療を続ければ、ほぼ全ての方でHIVを血液中から検出できない程度まで抑制することができ、健康な生活が送れ、他者への感染も防ぐことができるようになっています。

 以前は長期間にわたる抗HIV薬の内服による腎機能障害や骨粗しょう症などの副作用が問題となっていましたが、より副作用の少ない薬剤が開発されています。

 内服のしやすさも改善しています。1990年代は1日に複数回に分けて多くの錠剤を服用する必要がありました。ですが、複数の成分を含有した配合錠の登場により、2000年代には1日1回2錠となり、現在では1日1回1錠で治療ができるようになっています。

 しかし、現在においてもHIV感染症を治癒する薬剤はいまだに開発されていません。HIVの増殖を抑えるためには治療を生涯継続する必要があります。また、内服薬しか治療薬が無かったため、内服治療を生涯続けなければならず、内服し続けることを負担に感じる方も多くいます。

 そのような問題を解決する可能性がある薬剤として、今年新たに抗HIV薬の注射薬が発売されました。

 注射薬の使用条件に適した方のみ使うことができ、1~2カ月ごとに病院で筋肉注射することで治療を行え、内服が不要となります。新たな治療の選択肢として期待されています。

 このようにHIV治療薬は日々進歩を遂げており、新たな薬剤が次々に登場しています。

 HIV陽性者それぞれが自身にあった治療を選択できるよう、診療チームでサポート、情報提供を行っていきたいと思います。

(上原仁、琉球大学病院薬剤部薬剤師)