prime

半生をつづる良さ <伊是名夏子100センチの視界から>149


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄の日本復帰50年だった昨年、100人の沖縄の人の語りを記録するプロジェクトが始まりました。この企画の面白いところは、一人の人が100人に聞くのではなく、インタビューする人を約100人募り、選ばれた一人ひとりが自分の聞きたい人にインタビューし、まとめるのです。私も100人の中の一人として、78歳の私の父にインタビューをしました。

 父の幼少期の久米島での思い出や、那覇で生活を始めた日のこと、アメリカに留学した時のこと、復帰の日のこと、そして私が生まれた時のことなど、約5時間にわたる聞き取りをしました。私は文章を書くことには慣れていますが、何回かに分けて長時間のインタビューし、文字起こしをし、まとめるのは大変でした。でもできて本当に良かったです。親子であっても、知らないことがあまりにも多いと気づいたからです。

 そして今月、100人のインタビューをまとめた「沖縄の生活史(みすず書房)」=写真=が出版されました。一人の語りから見えてくる沖縄が鮮やかで、生々しく、飾らないありのまま語りの力強さを感じます。また一つのことがたくさんの人の視点から語られるので、点と点がつながり、私もその時代を生きていたかのような錯覚を覚えます。かなりのボリュームの本ですが、たくさんに人に読んでもらえるとうれしいです。

 私も最近、自分の経験を文字にして良かったと思ったことがありました。私は朝起きて、部屋の電球、とくに白熱球の光をつけるのが苦手なのですが、それは病院に入院していた時、朝6時に病室の電気が強制的につけられたことを思い出すからです。今でも朝、部屋の電気がついていたら消したくなるし、私が消した電気をまたつけられるとイライラします。息子は、私が書いた「ママは身長100cm」を読んでからは「ママは疲れちゃうんだよね」と言いながら、電気を消してくれるようになり、ありがたいです。

 家族だからこそ、何でも知っていると勘違いして、話さないままに誤解が起き、けんかになることはありますよね。自分の半生を文字にし、本にしたことは、私の活動を広げ、新しい出会いにつながっただけでなく、自分の家族にとっても良かったと感じています。父への聞き取りも沖縄の歴史の1ページとしてだけでなく、家族の宝物になりました。いつか母への聞き取りもできたらと思いつつ、私は書くことを続けていきたいです。


 いぜな・なつこ 1982年那覇市生まれ。コラムニスト。骨形成不全症のため車いすで生活しながら2人の子育てに奮闘中。現在は神奈川県在住。