【深掘り】政府が玉城知事を冷遇、その意図は 安保3文書で上京も官邸対応なく


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反撃能力のあるミサイルの県内配備に反対する要請書を井野俊郎防衛副大臣(右)に手渡す玉城デニー知事=9日、防衛省

 政府が昨年12月に閣議決定した安全保障関連3文書を巡り、玉城デニー知事は9日、政府に対し沖縄への敵基地攻撃能力(反撃能力)の配備反対などを求める要望書を提出した。安保3文書の主要要素の一つとも言える敵基地攻撃能力の保有を巡り、都道府県が配備反対を政府に伝えたのは初めて。米中対立の激化で有事に沖縄が巻き込まれる懸念が強まる中、政府が要請をどのように扱うかが注目される。

■汗流さず

 岸田文雄首相は、2022年末に国家安全保障戦略など3文書を決定した際の記者会見で「3文書の考え方について、地元の皆さまに丁寧に説明していく努力をしなければならない。汗をかかなければいけない」と語った。その後も関係閣僚を含めて地元の理解を得る必要性を強調してきた。

 だが、9日に要請に訪れた玉城知事に対応したのは防衛省と外務省の副大臣だった。県は首相や官房長官らにも面談を要望したが、官邸関係者との約束は取り付けることができなかった。

 5月下旬に普天間飛行場の移設先周辺の久辺3区長らが上京した際には、松野博一官房長官が2日連続で顔を合わせたり、浜田靖一防衛相が他の公務に優先させて面談したりするなど厚遇ぶりが目立った。今回の対応と対照的だ。

 政府関係者は、知事と政府側の面談について「知事の考えはもう分かっており、政府としても今の段階で言えることは限られる」と話した。

 自民党関係者は副大臣の対応とすることで「(沖縄県の狙う)県内外へのアピール効果は弱まる」と分析した。

■配慮実らず

 玉城知事は、21年12月の県議会一般質問で、敵基地攻撃能力の県内配備に「断固反対する」と表明した。政府による安保3文書の取りまとめに先駆けて、反対の立場を示してきた。

 県は今回の要請に当たってタイミングを慎重に見定めた。当初は昨年末の閣議決定から間を置かない、今年2月の要請が検討されたが、政府側が進めるとした説明を聞こうと取りやめ。4月にも日程調整が進んだが、宮古島沖で陸上自衛隊ヘリコプター事故が発生したことを受け、配慮して延期した経緯がある。

 調整を重ねた末の今回の国の姿勢に県関係者は「従来は首相や官房長官は調整が付かなくても、(官邸では)官房副長官に対応してもらっていた」と語り、対応の後退ぶりを語った。

 一方で、玉城知事に近い国会議員の一人は「政府は要請の影響が広がらないように努力するだろう。だが、東京で抑止力ありきの議論が先行する中、異議を唱えた意義は大きい」と語る。

 県幹部は「何かあってからでは遅い。継続的に求めていく」と語り、長い闘いの始まりを見据えた。

 (知念征尚、明真南斗)