【深掘り】PAC3、クルーズ船への配慮で移動 港湾組合「根拠崩れた」 近くには7月開放の人工ビーチ 沖縄・石垣


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旅客船ターミナルに近接した場所から移動し、人工ビーチ付近の緑地帯で展開しているPAC3の発射機=23日午前11時20分ごろ、石垣市南ぬ浜町

 北朝鮮の「衛星」発射に備え、沖縄県石垣市や宮古島市、与那国町への地対空誘導弾パトリオット(PAC3)展開が約2カ月と長期化している。特に自衛隊施設外の港に展開している石垣島では、展開場所を巡って自衛隊と市の協議が続く。港での展開に懸念を示していた港湾労働者らの声は聞き入れらなかったが、クルーズ船への配慮で場所が変更された。防衛省や市の対照的な対応に疑念の声も上がっている。

 防衛省・自衛隊は衛星発射で日本の領域に物体が落下する万が一の事態に備え、4月下旬から先島諸島などでPAC3部隊を展開してきた。北朝鮮は発射予告期間(5月31日~6月11日)の初日に打ち上げたが失敗。その後、北朝鮮は再び発射を試みる意向を示しており、防衛省は迎撃態勢の継続を決めた。延長する期間は「当分の間」としており、具体的には示していない。

 PAC3は那覇市や宮古島市、与那国町では自衛隊施設内に展開されているが、石垣市では駐屯地が工事中であることを理由に施設外の埋め立て地・南ぬ浜町で展開している。

 防衛省・自衛隊は4月には、南ぬ浜町の新港地区を候補地に選定した。従業員らの懸念を受け、海運業者はPAC3が実際に展開される約1カ月前から港での展開を認めないよう市に要請していた。市は自衛隊に他の場所も検討するように求めていたが、最終的には受け入れた。

 だが、6月18日には南ぬ浜町内の人工ビーチ付近の緑地帯へ移動した。クルーズ船の入港を前に、旅客船ターミナルに近接した新港地区の展開地から離れた場所に移してほしいという石垣市の声を踏まえた対応だった。

 全日本港湾労働組合(全港湾)沖縄地方本部の山口順市執行委員長は「新港地区じゃなければいけないという根拠は崩れた。クルーズ船のために動かすことができるなら港の外でも展開可能ではないか」と指摘した。

 クルーズ船が6月22日の入港を予定したことを受け、防衛省・自衛隊は市の要望も踏まえ新港地区への展開は21日までとした。だが、入港が19日に早まり、急きょ18日に展開場所を変えた。

 防衛省の対応は柔軟で、港湾労働者から不安の声が上がった時とは対照的だった。自衛隊関係者は「市がだめだという場所に無理やり置くことはない」と強調。全港湾から懸念が示された新港地区についても市の了解を得た上で展開していることを示唆した。

 現在、自衛隊が石垣市でPAC3を展開している人工ビーチは7月11日から一般開放される予定で、その後再びPAC3を移動させるのかどうかが焦点となる。自衛隊と市が調整を続けている。

 一方、展開が長期化する中、県内では常駐化を狙っているのではないかとの疑念が渦巻く。自衛隊関係者は「PAC3を置くには設備や人員などが必要で、膨大な費用が掛かる。なし崩し的に常駐することはない」と否定した。一部の国政与党議員からは先島諸島に常駐させる必要性を示唆する声が上がっている。

(明真南斗、照屋大哲)