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【寄稿】「宮城茂雄の會」を鑑賞して 幽玄な世界「今」に形象化 (作曲家・池辺晋一郎)


社会
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「諸屯」を舞う宮城茂雄=7月15日、東京都のセルリアンタワー能楽堂(提供・新宮夕海さん撮影)

 宮城流師範・宮城茂雄の第3回独演会が7月15日、東京都内で開かれた。作曲家の池辺晋一郎に批評を寄稿してもらった。

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 東京で、琉球舞踊「宮城茂雄の會」を鑑賞した。7月15日セルリアンタワー能楽堂。すべて宮城さん1人の、宮城流の舞を堪能した。

 琉球王朝時代の「古典舞踊」―「諸屯(しゅどぅん)」と古典曲に振り付けた「ぢゃんな節」。明治以降の「雑踊(ぞうおどり)」2番―「花風(はなふう)」「加那よー」。これらのあいだに、現代作曲家・伊左治直作曲による雅楽との共演作「珠(たま)すだれ」を抜粋・編曲した「創作舞踊」を配したプログラムである。

 僕は琉球舞踊に疎いが、実に新鮮で、魅了された。能や歌舞伎に比べ、装束はシンプルだ。しかし、きりりと整って、美の極地と言っていい。木々の芽吹きを想わせる淡い色調から、あでやかな桃色、黒っぽい峻厳(しゅんげん)なものまで、さまざまである。袂(たもと)のふくらみ、開き具合、形に至るまで完璧に計算しつくされている。歌舞伎の衣装をゴッホの絵画になぞらえるなら、琉球舞踊のそれはローランサンだ。

「珠すだれ」を披露する宮城茂雄(提供・新宮夕海さん撮影)

 所作にも、深い味がこめられる。指先まで気持ちが通い、一瞬一瞬に意味を感じさせ、扇や傘を持てば、それをゆっくりと回したり、かざしたりの形のひとつひとつが、限りなく美しい。激しい動きはないに等しいが、それゆえにかすかな動きが、観客の目を引きつける。

 三線は2人で、1人が弾きながら歌う。そこに笛と箏、「加那よー」では胡弓も加わった(「珠(たま)すだれ」のみ、2人の笙(しょう)による)。歌は、基本的に琉球旋法にのっとった流れ。各楽器も歌をなぞる形だが、箏だけ、歌のあとに歌とは異なる動きを残すのが、印象的。ただし胡弓入りの「加那よー」で、歌と楽器が別な動きをしつつ速いテンポで琉球特有のリズムになるのは、興味深かった。さらに「諸屯」では、映像作家・河瀬直美さんが、歌詞の現代語訳を朗読。幽玄な世界が眼前で「今」に形象化されて広がるこの試みにも、惹(ひ)かれた。

 僕は、かねて宮城茂雄さんの「組踊」におおいなる関心を抱いてきたが、その根底にある舞踊の奥深さを垣間見た思いを抱きつつ、能楽堂をあとにしたのであった。
 (作曲家)