prime

「人間図鑑のような物語に」 新連載小説「どら蔵」作者・朝井まかてさんに聞く


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
連載小説「どら蔵」の作者・朝井まかてさん(学芸通信社提供)

 本紙は16日から連載小説「どら蔵」を文化面(火曜―土曜日)に掲載している。作者で直木賞作家の朝井まかてさんは大阪出身の沖縄3世で、ペンネームの「まかて」は祖母の名に由来する。朝井さんに小説の読みどころや沖縄の読者へのメッセージを聞いた。(聞き手・島洋子)

 ―どんな物語ですか。

 「『どら蔵』という骨董(こっとう)商の見習いである未熟な若者が勘当されて物語がスタートするのですが、人が集まる江戸でいろいろな物や人と出会う。へこたれず、くじけず、人懐っこいどら蔵に対し、一癖も二癖もある食えない奴らが登場してまるで人間図鑑のような物語になると思います」

 「どら蔵は勘しかない。知識や情報で物を見ていないから値打ちや高い安いではなく、俺はこれが好きや、と言える。世の中には自分がいったい何が好きか分からない人もいるけれども、軸のある主人公です」

 ―主人公を骨董商の見習いにしたのはなぜですか。

 「私自身、古い物が好きで若い時から旅に出ると古道具や骨董市をのぞいたりしていました。古い物には物以上の物語があり、値段以上の価値がある。何かをコレクションするというより、集めない付き合い方もあるんです。ただ、古い物を修復できる職人さんがいなくなっているんですね。例えば古い木造家屋で布の壁紙を貼り替えようと思ったら、対応できる職人さんがいない。何でも効率で判断する世の中になったけれど、時代小説は対極の世界が描ける」

 ―沖縄の新聞で連載するのは初めてですね。県民、読者へのメッセージを。

 「本当は琉球を舞台にした作品で初お目見えしたかったのですが、先に『どら蔵』でお目にかかります。沖縄とは気持ちが近しいので読者の方がどう読んでくれるかと想像するのは、まかてとしてはうれしいです」

………………………………………………………………

 あさい・まかて 1959年、大阪府生まれの沖縄3世。祖母の名前がペンネーム。甲南女子大学文学部卒業。広告会社勤務を経て、2008年、「実さえ花さえ」(後に「花競べ 向嶋なずな屋繁盛記」に改題)で第3回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞してデビュー。歌人・中島歌子の生涯を描いた「恋歌」で13年に本屋が選ぶ時代小説大賞を、14年に直木賞を受賞。20年「グッドバイ」で親鸞賞、芸術分野の優れた業績を表彰する20年度芸術選奨の文部科学大臣賞。22年には「日本の植物学の父」とされる牧野富太郎(1862~1957年)を描いた「ボタニカ」がある。