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沖縄に「民主主義のあるべき姿」 自公から「バレエ大好き党」まで取材の選挙ライター畠山理仁さんを追った映画「NO 選挙、NO LIFE」


沖縄に「民主主義のあるべき姿」 自公から「バレエ大好き党」まで取材の選挙ライター畠山理仁さんを追った映画「NO 選挙、NO LIFE」 ドキュメンタリー映画「NO選挙、NO LIFE」の一コマ©ネツゲン
この記事を書いた人 Avatar photo 滝本 匠

 国内外の選挙現場で25年にわたり取材を続けているフリーランスライターの畠山理仁(みちよし)さんを追ったドキュメンタリー映画「NO選挙、NO LIFE」が11月から、東京の劇場・ポレポレ東中野で公開されている。畠山さんは「候補者全員を取材できなければ記事にしない」とのスタイルで、沖縄の県知事選でも取材を重ねてきた。全国約45館で上映予定で、沖縄では12月23日から29日まで那覇市の桜坂劇場で上映される。

ドキュメンタリー映画「NO選挙、NO LIFE」の一コマ。名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブのゲート前で座り込む市民らを取材に訪れた畠山理仁さん(左)©ネツゲン

 畠山さんは1973年、愛知県生まれ。早稲田大学在学中から雑誌を中心に執筆活動を開始した。新聞やテレビでは正面から取り扱われない候補者らを取材した著書「黙殺 報じられない”無頼系独立候補者”たちの闘い」(2017年、集英社)で第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した。

 本映画では「コスパ、タイパ無視」と畠山さんのスタイルを表現する。2022年6月の参院選の立候補届出受付の現場から場面は始まる。自民党や公明党、立憲民主党はもちろん、「議席を減らします党」「スマイル党」「共和党」「平和党」「こどもの党」「維新政党・新風」「バレエ大好き党」など、新聞では「諸派」とまとめられがちな立候補者の取材を続けていく。

ドキュメンタリー映画「NO選挙、NO LIFE」の一コマ。沖縄県知事選取材の様子(©ネツゲン)

 選挙管理委員会での届出の様子を取材したかと思うと、候補者の第一声の取材で街頭に駆け出していく。首相官邸前では、沖縄への基地押しつけを訴える「沖縄の米軍基地を東京へ引き取る党」の、なかむら之菊(みどり)さんを取材する姿も。

 ある候補者が取材に対し、出馬理由を「私は自分のことを超能力者だと思っている。超能力で景気を良くしようと思っている」と語ると、「気づいたきっかけは?」と問いかける畠山さん。それに候補者が「ベルリンの壁崩壊があったが、私が原因だと思っている」とまじめに答える様子も畠山さんはビデオカメラに収めていく。
 さまざまな思いを表現する候補者に迫る畠山さんをカメラは追い続ける。

沖縄県知事選で候補者を追いかける畠山理仁さん(©ネツゲン)

 監督は、NHKの「ETV特集」やMBSの「情熱大陸」、フジテレビの「ザ・ノンフィクション」などのドキュメンタリー番組でディレクターを務めてきた前田亜紀さん。映画「カレーライスを一から作る」を監督したほか、小川淳也衆院議員のの活動を追った「なぜ君は総理大臣になれないのか」(大島新監督)や、沖縄の知事選を扱った「シン・ちむどんどん」(ダースレイダー・プチ鹿島監督)などのプロデューサーも務めた。

 前田監督は畠山さんを追って沖縄も訪れた。「沖縄本島を東西南北ぐるぐると巡ったことで、選挙イヤーの賑わいと共に、地域が持つ課題、それらに対する多様な意見や考えを知る機会となりました。また、”民主主義のあるべき姿”を肌で感じる貴重な体験にもなった」と振り返る。

ドキュメンタリー映画「NO選挙、NO LIFE」の一コマ。参院選を取材する様子(©ネツゲン)

 本映画の見どころを前田監督は「選挙と選挙ライターを追う本作は、自由に生きていくことに惑う中年の青春ドキュメンタリー。もっと大きく言えば、人間の多様性、社会に対する利他心のあり様を描いている」と説明する。「後半は沖縄が舞台です。ぜひ沖縄のみなさまにご覧いただけたら」と観覧を呼びかけた。

映画「NO選挙,NO LIFE」の一コマ。参院選立候補者を取材する畠山理仁さん(手前左)(©ネツゲン)

 被写体となった畠山さんは、さまざまな選挙の現場を取材してきた経験から「沖縄は間違いなく選挙が盛り上がる地域の一つ」と語る。「街全体がおまりの高揚感に包まれる沖縄は、選挙の大切さと面白さをどこの土地よりも知っている。背景には『声を上げ続けなければ自分たちの声はなかったことにされてしまう』という生活に根ざした危機感がある。まさに民主主義の原点を見る思いだ」と沖縄での取材の感想を披露する。

 その一方で「各候補がどんな選挙戦を繰り広げているかは、意外と知られていない。これまで私しかみてこなかった熱い選挙戦の風景を、ぜひ追体験してほしい」と呼びかけた。

(滝本匠)