『イリオモテヤマネコ 狩りの行動学』 フィールドワークの神髄


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『イリオモテヤマネコ 狩りの行動学』安間繁樹著 あっぷる出版社・2700円

 終始、ワクワクが止まらないまま読み終えた。著者は今から約50年前にイリオモテヤマネコが発見された後、初めて本格的な研究に取り組んだ研究者の一人である。当時謎だらけだったイリオモテヤマネコの生態の解明に、片や環境庁(当時)の調査団が機材や人材を投入する一方で、学生だった著者はたった独り、資金も機材も在籍する大学教官による指導すらも期待できない中、熱意だけを頼りに単身、西表島に乗り込んでいく。

 日本の哺乳類生態学はまだ黎明(れいめい)期で、調査機材はおろか、調査方法も十分に確立されていない時代。著者は手探りながら独自に研究を進めていき、そして、最終的にはその研究で博士号の学位を取得するのである。この本には、若き日の著者の情熱あふれる調査の足跡と、貴重な博士論文の研究内容が当時の風景そのままに楽しく、分かりやすくつづられている。特に、当時不可能といわれていたイリオモテヤマネコの直接観察を成功させ、長期継続して採食行動の詳細を明らかにしていく過程には引きつけられる。

 観察小屋や自動撮影装置、照明装置、果ては到来したヤマネコの雌雄鑑別装置なるものまで著者は創意工夫で作り出していく。方法がないから、道具がないからといって諦めたりはしない、なければ自分で作り出すのだ。野外における調査機材が発達した現在でも、調査地と対象動物に合わせたこうした工夫は重要だし、原点だと私は思っている。そして、そこにこそフィールドワークの楽しさがある。調査地を愛し、調査動物を愛し、次なる謎にどんどん取り組んでいく。新しい発見を自分でなしえたときの感動。将来のことなど気にしない、今夢を実現する、振り返らない熱意。それがこの本には詰まっている。

 残念ながらイリオモテヤマネコの最新の研究成果は盛り込まれていない部分もあるが、それを補って余りある、フィールドワークの本来の楽しさを再確認させてくれた本だった。生きものや自然が好きな若い人たちにぜひ読んでほしい1冊である。

 (岡村麻生、西表大原ヤマネコ研究所・琉球大学研究員)

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 やすま・しげき 1944年、中国内蒙古生まれ。東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。世界自然保護連合種保存委員会ネコ専門家グループ委員など。