救助証言、対馬丸記念館に 大島さん 絶版の「宇検誌」寄贈


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 「対馬丸」の慰霊碑が建立された奄美大島の宇検村宇検の歴史をまとめた本「歴史景観の里 宇検部落郷土誌」が20日、対馬丸記念館(那覇市)に贈られた。寄贈したのは、同集落に住む大島安徳さん(90)。郷土誌は1996年、住民でつくる編集委員会により700冊だけ発行された。今では入手困難という。対馬丸についても、救助に当たった人たちから直接聞き取り、まとめている。

対馬丸記念館に寄贈した「歴史景観の里 宇検部落郷土誌」を手にする大島安徳さん=21日、奄美大島の宇検村宇検

 大島さんは当時、対馬丸の漂流者の救助や埋葬に当たった。「集落の人が早朝、うめき声を聞き、家の戸を開けたら、髪はばさばさで顔は赤く皮膚がめくれ上がり、服はずたずたの人がいたという」と話す。「知らせを受けて、若かった私が鐘に走っていき、カンカンと鳴らして、非常招集をかけた」と振り返った。

 その後、救助に当たっていると「助かった人が腕にしがみついてきた。それが今でもよみがえってくる」と話す。一方で、腐乱して流れつく遺体も多かった。悪臭もひどかった。「家で造っていたどぶろくを飲んで埋葬した。それくらいひどい状態だった」。数日後、日本軍が乗り込み、かん口令を引いた。「終戦まで口をつぐんでいた」と話した。

 大島さんは郷土誌の執筆責任者も務めた。住民の丁寧な聞き取りを基にしており、研究者からも問い合わせがあるが、残っていないという。

 大島さんは家族のため残していた数冊から、対馬丸記念館への寄贈を決めた。「聞き取りをまとめたもので、生き証人の一人だ。語り継ぐために、記念館にあった方がいいと思った」と話す。同館に対し「多くの人に読んでもらいたい。救助に当たった人の心情を理解してもらえたら、ありがたい」と話した。

 対馬丸記念館はこれまで、郷土誌のコピーのみを所有していた。郷土誌を受け取った同館学芸員の慶田盛さつきさん(37)は「実際に救助した人を訪ね、話をまとめてある本は、この1冊だけだ。大切な本を託してくれた。対馬丸を語り継いでいく上で心強い存在になる」と話した。