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<メディア時評・NHK受信料>ネット進出で義務化か “公営”色強化に懸念


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
常時同時配信における受信料負担について意見を募集するNHKのウェブサイト画面

 NHKが自社ウェブサイトの片隅で意見募集を実施している。7月11日までの2週間という短さだ。が、その中身は、単に受信料制度の変更を求めるにとどまらず、NHKがインターネットに本格進出することに伴うものであるのが肝だ。なぜなら、旧来型の電波を使うのではなく、NHKがネットの世界においても「放送」を実施するとはどういうことかを、事実上、方向付けるものになりそうだからだ。

公共放送

 これを考えるうえでは、放送法によって定められている、NHKの業務と受信料の仕組みの二つについて、確認しておく必要がある。NHKの仕事は、必ずやらねばならない必須業務と、やっても構わない任意業務に分かれる。これまでインターネット上にコンテンツを流す行為は任意で、あくまでも「正業」は、地上波と衛星の2種類の放送であった。

 一方、NHKの収入はほぼすべて、受信料と呼ばれる私たちがボランタリー(任意)に支払う視聴契約料によって成り立っている。これはその時代に応じた契約形態となっていて、かつてのラジオとテレビ、白黒とカラーによって契約料金が違った時代を経て、現行の契約種別になっている。そして今まさに、ネット時代に向けて、この契約種別の変更が議論されているということになる。

 実際にNHKの番組を見ているかどうかと関係なく、テレビ受像機を持っている人(NHKを受信することができる受信設備の設置者)は、世帯ごとに必ずNHKとの間で受信契約を結び、受信料を払う義務があることが、放送法によって定められている。それゆえに、契約を結ばない人や、契約は結んでいても支払わない人に対して、NHKは民事訴訟を起こして支払いを求めるということになる。

 一方で、支払っていない人も、実際はテレビさえ買えば、自由に番組を視聴できる。この点、契約を強制する一方で、その契約および徴収に国は一切関与しないことで、市民社会が支えるという意味で“公共的”な機関としての位置付けを形成している。

 受信料は、「NHKの維持運営のための特殊な負担金」と呼ばれているが、その負担の主体は専ら日本に居住する一般市民であって、国でないことが重要である。だから、国営放送ではなく公共放送と呼ばれるわけだ。最近のNHKの報道が政府の意向を気にし過ぎているなどと批判されているが、この構造からすれば忖度(そんたく)すべき相手は官邸ではなく、受信契約者である市民であることは明らかであろう。

 ちなみに、生活保護世帯などの支払い免除を除いた有料受信契約対象件数約5千万件のうち、約8割が契約を締結しており、そのほとんどの77・7%が実際に支払っているとされる。府県による凹凸が激しいが(沖縄は支払率が著しく低い)、不祥事が発覚するなど特別な時期を除き、近年はおおむね7割台を維持している。額で言えば、2015年の場合、6625億円となる。

終わりの始まり

 今回の意見募集の主体は、NHK受信料制度等検討委員会だ。17年2月に発足し外部の研究者5人で構成されている。テーマは三つあり、(1)常時同時配信の負担(2)公平負担徹底(3)受信料体系―のあり方について検討を進めており、そのうち(1)についての意見を求めていることになる。

 現行の放送と同時に、同じ内容をすべてネット上で配信するにあたり、テレビで放送番組は見ないが、ネットの動画配信を受信する者から、それなりの「受信料」的なものを徴収しようということになる。その根底には、NHK作成のコンテンツをより広く、社会全体に到達させることが望ましいという考え方がある。

 その際、英国の公共放送BBCが行っているような、プロテクトをかけることが想定されているように推測される。一方で20年の東京五輪では、公共性に鑑みてだれでも無料でネット配信の競技中継を見られるようにすることも検討されているようで、いったん無料化したものを、あらためて有料化することには大きな抵抗があるだろう。それを思うと、初めから「失敗」を想定しているとも取れるのであって、その行きつく先は、全世帯強制徴収という道筋ではないか。

 これはまさに、現在の「公共」から、より「公営」色を強めることを意味し、その分、政府との関係性も強まる可能性が高まるし、現行の市民社会が支えるという基本理念は消え去ることになりかねない。その意味で、ネット有料化は受信料制度の「終わりの始まり」を意味するのではなかろうか。

 受信料については5年前にも、NHK内に検討組織を作りネット時代に対応する契約制度の在り方を議論した経緯がある(NHK受信料制度等専門調査会)。総務省内には「放送をめぐる諸課題に関する検討会」が15年に設置され、16年秋には「新たな時代の公共放送」に関する中間報告を発表している。今回の検討結果とそれに基づく意見募集は、これまで検討の方向性とも符合しており、一貫してNHKのネット進出を前提としたものとなっているのが気にかかる。

 政府に対し、必要以上におもねる放送を公共放送と呼べるのかという疑問は棚上げする。フルデジタル時代の公共放送とは何か、ネットの世界における「公共メディア」は必要なのかを議論することなしに、全世帯徴収に向けた受信料義務化が強化されることは、社会の合意を得ることはできないであろう。ましてや「みなさまのNHK」のキャッチフレーズとは、ますます離れた存在になっていくことにならないだろうか。
(山田健太 専修大学教授・言論法)