学力テスト再開10年 現場知る2氏に聞く


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 今年再開から10年を迎えた全国学力テスト(学テ)。県教委は学テを軸に学力向上対策を進め一定の成果が出たと評価するが、弊害が深刻化しているという批判がやまない。学テは沖縄の子どもに何をもたらしたのか。学校が目指すべきものは何か。学校・子どもの現場と学テの両方に詳しい2氏に聞いた。(聞き手 黒田華)

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【弊害】上間陽子氏/物言わぬ子育てるな

 上間 陽子氏

 ―世間一般的に「学テの点数=子どもの学力」と捉えられている面がある。

 「学テで測れる学力はごく一部にすぎない。国が学テによって向上を目指すPISA型学力は数値で測れるものに限定される上、多国籍企業が主導する『グローバルな企業人育成』にすぎないと国際的にも批判されている。そのような学力が労働者の非正規率45%の沖縄の子どもにどれだけ生きるのか。『国が測っているから正しいだろう』と無批判に取り入れず検証すべきだ」

 ―学テを軸に進める県の学力対策をどう考えるか。

 「若者たちはなぜと思うほど苦しいことをしゃべらない。暴力や不当な扱いを受けても、何年も誰にも話さず我慢している。大学には自死やうつの問題がある。暴力を受けた自分の苦しさを語れないまま大人になり、さらに暴力的になる若者もたくさんいることが社会調査をすれば分かる。子どもたちは学校で何が評価されるかよく分かっており、学テで評価されることでしか生き残れない学校で自分の苦しさを出せる訳がない。若者の育ちの“その後”のしんどさを知れば、点数が上がって良かったねとはとても言えないはずだ」

 ―沖縄の子どもの将来のためにどんな力が必要か。

 「3割もの貧困層がいる沖縄に必要なのは、ドリル対策で付けた瞬間的な“学力”ではない。自分が話すことを周囲は受け止めてくれるという社会への信頼感であり、生活の中の自分の苦しさを言葉にして不当に奪われないようにすること。物言わぬ子どもを育ててはいけない」

 ―あるべき学校の姿は。

 「話すには受容的な環境が必要だ。孤立した環境で育ち、世の中に自分の話を聞く人はいないと思っている子どもを公教育でこそ救うべきだ。教員の数を増やし、何より子どもに関わる時間を確保してほしい。『学テの好成績が全て』という構図の中、教師は子どもと関わる時間を奪われ、点数を上げないと無能者扱いされてきた。子どもの話を聞き出せる教師をチームで支え評価する、日本の教員文化を取り戻す必要がある。基礎学力以前の問題だ」

 「学テ偏重をあおってきたマスコミの責任は重い。琉球新報は学校現場や貧困の状況も見ないまま『早寝早起き朝ご飯』で学力が上がるというような、学術的に完全に否定されている言説を2015年まで垂れ流した。反省すべきだ」

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 うえま・ようこ 琉大教職大学院教授。性風俗産業に就く若者を調査研究し、2016年に「沖縄における貧困と教育の総合的研究」で学テ分析をした。

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【成果】蔵根美智子氏/学力で選択肢広がる

 蔵根 美智子氏

 ―世間一般的に「学テの点数=子どもの学力」と捉えられている面がある。

 「それは違う。学校は指導と評価が一体で、指導の結果として子どもの点数がある。点数は子どもの学力に加えて教師の指導、校長の教育課程管理すべてへの評価だ。学テの設問は小中学校課程の能力を適切に測るものとして専門家が精査した良問だ。結果は校長も教員も子どもも反省材料として受け止め、また一緒に頑張らなければならない」

 ―学テを軸に進める県の学力向上対策をどう考えるか。

 「県教育庁では対策を立てる側にいた。国が学テを実施するのは世界でPISA(OECDが進める国際的な学習到達度調査)学力が求められる中、日本も適切に対応する必要があるということ。公教育としてその方針を受け止めなければならない。授業を改善すれば力は付く。この10年で秋田県に学んだ授業のスタイルが特に算数で定着し、点数にも表れてきている。学テは、目標を定めてみんなで努力し、達成感を経験する機会だ」

 「前任校では朝の始業前、地域、教員がボランティアで採点・指導する20分間の自主ドリル学習時間を15年間続けている。不登校の子も含め勉強が子どもの目標になり、嫌がる子もなく、みな自然に頑張るようになった。放課後にも担任以外の教員、校長も関わり補習をした。子どもの頑張りを地域の人が褒め、子どもは自信を付ける。学習環境の整った今の子たちは幸せだ。勉強ができる環境や支えてくれる大人に感謝することも、学テの学びに位置付けていた」

 ―沖縄の子どもが将来生き抜くためにどんな力が必要か。

 「義務教育、特に小学校は完全習得する必要がある。厳しい家庭の子どもこそ学力を付けることで将来の選択肢が広がる。学習の定着には反復が不可欠だ。厳しい子ばかりを見ず、いい子をもっと伸ばすべきだ」

 ―それを実現するために学校はどうあるべきか。

 「一人一人の子どもを見て、うんと大事にすること。担任以外のたくさんの教員、大人と触れ合うこと。また教育は感動。子どもの心を動かす授業で子どもは伸びるし、そのために教員は勉強しないといけない。それには時間と人手がいる。地域や関係機関の協力を求めたいし、行政に人員要求するのは校長の仕事だ」

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 くらね・みちこ 放送大学客員准教授。元小学校校長。県教育庁では生涯学習振興課長として学力向上対策に携わる。