収入激減、楽しさは10倍 沖縄のソフト開発会社、親子で挑む事業承継


この記事を書いた人 Avatar photo 与那嶺 明彦

 県内企業の社長の平均年齢が60代となる中で、オーナー社長が多い中小企業では、復帰前後に創業した会社をどう引き継ぐかという「事業承継」が経営課題となっている。ソフトウエア販売・開発のオキコム(宜野湾市)では4月、小渡〓(かい)社長(65)の長男、晋治さん(35)が後継者として取締役で入社した。東京の外資系投資銀行に10年勤務し、グローバルな舞台で数千万円の年収を稼ぐビジネスマンだった晋治さん。「収入は10分の1、でも楽しさは10倍」としがらみのない中小企業から沖縄の課題解決に挑む道を選んだ。

オキコムの小渡〓社長(右)と後継者として4月に取締役に就いた晋治さん=9月、同社の那覇営業所

オキコムの設立は1980年、外資系のコンピューター機器製造・販売の日本オリベッティが沖縄営業所を引き上げたのに伴い、小渡さんをはじめ沖縄営業所の6人が沖縄コンピュータ販売として起業した。社長職は年長者が就いたが、なかなか軌道に乗らず、設立5年後に小渡さんが33歳で3代目の社長に就いた。小渡さんは「体力だけは人一倍だったから、社長自ら自転車で飛び込み営業に回った。しゃにむに働いた」と振り返る。6人で起業した会社は現在、年商9億円、従業員65人の規模となった。

 晋治さんは早稲田大商学部を卒業した2005年、メリルリンチ日本証券に入社した。地方自治体の資金調達のコンサルティングなどを担当した。金融機関や財務省、格付け機関の担当者らと仕事をしながら刺激に満ちた日々を送った。

 就職して10年を迎える中で「ニッチな業界に染まっていたので、新しい所へ行きたい」との思いが膨らみ、留学のために退社。16年にはシンガポール経営大学で経営学修士(MBA)を学んだ。

 父親の経営するオキコムへの入社を決めたのは留学中の16年末。「社員の平均年齢が35~36歳で、今の自分と同じ。いつか会社を継ぐのなら、社員と同じ目線を持てる時がいい」と判断した。

 米配車大手ウーバーのシンガポール法人幹部など、メリルリンチやシンガポール留学時代の人脈とつながる。「沖縄発本土行き」を掲げてきたオキコムは、晋治さんが4月に取締役に就任したことで一気に海外進出の扉が開いた。中国版LINEとも呼ばれるアプリ「微信(ウェイシン、英語名WeChat)」のモバイル決済に関する仕事が持ち込まれると、微信を運営するテンセントの本社がある中国・シンセンを直接訪問するスケジュールを即座に決め、提携の話を進めた。

 晋治さんは「いち中小企業がグローバルな企業と一緒になって仕事ができる面白さを感じている」と語る。
 中小経営者の事業承継では、後を任せる家族や社員が見つからず売却や閉鎖を選ぶ企業もある。県中小企業家同友会の代表理事でもある小渡さんは「肝心なのは継ぎたくなる会社をどうつくるかだ。大企業で活躍する子をこんな小さい会社に連れてきてと言う人もいるが、子どもには大いに期待すべきだ。優秀な人材が沖縄に帰ってきて付加価値の高い仕事をすることで、沖縄の社会が変わる」と語った。

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 県中小企業家同友会は創立30周年を記念した経営研究集会を、3日に宜野湾市のラグナガーデンホテルと沖縄コンベンションセンターで開く。小渡〓・晋治父子のトークセッションなど七つの分科会と記念講演がある。問い合わせは(電話)098(859)6205。

※注:〓は王ヘンに「介」