〈追跡〉「調査ずさん」市民指摘 石垣陸自配備予定地カンムリワシ営巣確認 市聴取専門家も「生態に影響」


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配備予定地周辺上空を旋回するカンムリワシ=2月28日、石垣市

 陸上自衛隊配備に向けて造成工事が進む石垣市平得大俣周辺で、国指定特別天然記念物カンムリワシの営巣が、沖縄防衛局による4月下旬の調査で確認された。防衛局は重機使用の作業を一時中断した。営巣の可能性が高いという地域住民らの指摘の正しさが証明された形で、生育環境保全のため工事中止を求める声が改めて上がっている。

 防衛局は「速やかに配備が実現するよう取り組む」と従来通りの見解を繰り返し、工事の早期再開を目指す。市も環境への配慮を求めながらも、防衛局との同調姿勢をにじませる。

 防衛局は昨年12月~今年3月に毎月3日間実施した調査で合計132件の飛来を確認したが、「営巣木はないと判断」してきた。日本野鳥の会石垣島支部の小林孝事務局長は「生育環境が整っており、営巣は当然だ。これまでの調査がいかにずさんだったかが明らかになった」と指摘する。

 ただ、防衛局が9日に報道各社に送付した文書では本島在有識者による「営巣場所から距離が離れているため、工事を継続しても支障ない」との見解が示され、工事再開に専門家の「お墨付き」を得ているとアピールする。

 工事の早期再開の思惑を見せる防衛局の姿勢に、小林事務局長は「人が動き回るだけでも営巣に影響が出かねない。一切の工事をやめてほしいというのが本音だが、少なくともひなが巣立つ9月まで工事は止めるべきだ」と強く訴える。

 防衛局の報告を受けて9日に会見を開いた中山義隆市長は「工事での影響がないようにしてもらうのは当然だ。市としても調査・観察を継続したい」と強調。防衛局に配慮を求める姿勢を見せる一方で、重機使用を控えていることを踏まえて工事停止を求める考えはないとした。

 市内の専門家に独自で意見聴取したとして、工事の影響については「(防衛局報告と)おおむね同様な意見という趣旨の回答」だと公表。一方、この専門家は本紙の取材に対し「営巣放棄はしないだろうが、生態に影響を与えると思われるので工事継続は好ましくはない」としており、公表内容との「解釈」の差異が浮かんだ。

 予定地周辺の於茂登地区に住む嶺井善さん(53)は「他に営巣中の個体がいる可能性もある。カンムリワシは市の貴重な財産だ。市には防衛局に一度立ち止まり、環境影響評価を実施するべきだと伝えてほしい」と求めている。